パティパダー巻頭法話
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No.27 (1997年5月)
賢者人間入門(2)
〜感情に支配されず感情を支配する〜
A・スマナサーラ長老

 人間は感情に支配されています。好き、嫌い、欲望、夢、怒り、憎しみ、嫉妬、倣慢、プライド、メンツ、失望、苦しみ、悩みなどはすべて感情と言うことができるでしょう。その上さらに人の生きる環境からも様々な感情が現われます。自信がないという気持ち、不信感、猜疑心、恐怖感、負けず嫌い、完壁主義、他人のことが過剰に気になる気持ち、自意識過剰、自信過剰のようないろいろな言葉で様々な感情が表現されます。人の感情を数え上げるときりがありません。
仏教では、対象を認識するとき心がどのように反応するかという立場から感情を三つに分類しています。
ひとつは心が対象に惹かれるという反応です。この場合は愛情、自信過剰、夢、欲望などの感情が現われます。
次は対象を拒否する反応です。その場合は怒り、嫉妬、憎しみ、恐怖感などが現われます。
もうひとつは対象に対する明確な認識が起こらないという反応です。その場合は不信感、猜疑心、自己不信などが現われます。
どんな感情であろうが仏教では、その三つを基本的な感情として分けて理解しやすくします。そのほうが感情に悩まされている人の問題を素早く処理できるのです。

 ここで取り上げた感情は、人の成長を妨げるものだと仏教では認めているのですが、人を成長させる明るい感情もあります。
たとえば、自己中心的な愛情のかわりに人の為に行動する喜び(mettâ/慈悲)、物事をよく理解することを喜ぶ気持ち(paññâ/智慧、知識)、物事にとらわれず明るく生きようとする気持ち(saddhâ/確信)などがあります。しかしそういう感情を持って生きる人が少ないことは残念です。

 人の生活というのは感情に支配されているといえます。人の判断、行動などが感情に支配されると危険です。その人自身の進歩を妨げますし、社会にも貢献はできません。人生も徐々に暗くなっていきます。怒り、嫉妬、瞋意、愛情、欲望などに支配されると、物事を理解できなくなるだけでなく、本人は気づかないけれども客観的に見ればおかしい行動をしてしまいます。それは愚か者の生き方だといえます。感情のままに生きることはいたって簡単です。動物は感情のままに生きていますが、だからといって人間もそれでいいと思うのはあまりほめられたことではありません。感情のままに生きるならば何も進歩はないし、人は努力する必要もありません。せっかく人間として生まれたからには精神的に成長しなくては意味がありません。

 暗い感情を乗り越えることはそれほど簡単ではありません。時間をかけてゆっくりと自己観察をしながら進むベきです。それには自分の感情が今どうなっているのかを確認することです。それからその感情がおさまるまで行動を控えることです。それがいくらかできるようになれば、物事を客観的に見て理解しようとする、言い替えれば自分の主観的な判断に、他人から見て得られる判断もつけ加えて、どうするべきかの判断をするようになります。そのような行動をするのは面倒に感じるかもしれません。忍耐、努力、心を明晰にすることなどが必要ですが、それによって必然的に仏教で認めている明るい方向へ進みます。それは愚か者の状態から徐々に賢者の道を進むことです。

 もちろん、人間は皆、暗い感情だけで生きているわけではありません。特別に悩むことがなく、物事が順調に運び、合理的に判断することができる、そのような場合、人はしっかりしていて感情に支配されているとはいえません。このような人々は、結構落ち着いて生活しています。でもこの場合も感情の問題を理解していませんので、安心するには早いのです。物事は絶えず変化していますから、順調な状態も崩れることがあります。物事が不幸に傾いても落ち着いていられるならば、それは賢者の生き方です。

 人が明るくなり、自信をつけられ、喜びと幸福を感じるのは4つの原因が考えられます。

  1. 利得(lâbha/物事がうまくいく、成功する、全てが順調にいくこと)
  2. 名声(yasa/社会に認められること、高い立場にあること)
  3. 賞賛(pasamsâ/成功して賞をもらったり、褒められたり、有名人になること)
  4. 幸福(sukha/豊かで健康的で家庭円満で、楽しく生きられること)

以上の4つがあれば誰でも幸福を感じるし明るくなって活発に生きていられるのは当然ですが、すぐ感情的になって舞い上がってしまいます。それは落し穴です。舞い上がってしまうと、我を忘れ、自信過剰になって余計な行いまでする恐れがあります。
さらに、人が不幸を感じて落ち込む原因も4つあります。

  1. 不利得(dlâbha/失敗すること、損すること、景気が悪化すること)
  2. 不名誉(ayasa/立場を失うこと、批判されること)
  3. 非難(nindâ/失敗したり過ちを犯して厳しく非難され、否定され、社会から追い出されること、権力争いなどで事実無根の非難を受けることもある)
  4. 不幸(dukkha/家庭や職場で問題があったり、病弱で苦しみを感じること)

その4つに出会ったら、落ち込み、自信を失い怒りを感じます。それは暗い感情です。暗い感情に陥ったらひどくなる一方で立ち上がることは不可能です。この4つに出会ってすぐ悩んでしまう気持ちが「感情」です。

 幸福なときに舞い上がることも、不幸なときに激しく悩むことも、どちらも感情に支配されることです。世の中を生きている間は、以上述べた8つに出会うことは避けられません。得をすれば損もする、認められれば否定もされる、褒められたら非難もされる、楽あれば苦もあるのです。それは1つにとどまることなく、常に変わり回っていくものなのです。賢者は何があろうとも落ち着いて理性を守って適切に行動し、幸福にも不幸にも引きずられないように心の平安を保ちます。

 暗い感情の人だけではなく明るい人であっても、人間誰でも、以上の8つに気をつけなければなりません。この8つに、仏教では世の法則 (loka dhama)という言葉を使っています。現実を正しく見て認識し、落ち込まず、舞い上がらないよう気をつけて生きるべきなのです。幸福も不幸も、ずっと続いているわけではありません。

今回のポイント

◎経典の言葉
Selo yathâ ekaghano − vâtena na samîrati.
Evam nindâ pasamsâsu na samiñjanti panditâ.(Dh.-81)
ひとかたまりの岩山が風に揺るがないように、賢者は非難や賞賛に動じない。(Dhammapada−81)
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