ジャータカ物語
Sabbe satta bhavantu sukhitatta
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仲違いの話

 この物語は、釈尊がジェータ林におられたとき、僧団の双璧たる二人の仏弟子について、お説きになったものです。

 あるとき二人の偉大な長老は、雨期の間集中して修行に励むために、お釈迦さまの許可を得て人気のない森の中へ入って行きました。すると他人が食べ残した残飯を貰って生活している一人の男が長老たちにはべりつき、二人の住所の近くに居ついてしまいました。男は、長老たちが仲良く暮らしているのを見て、

「こいつらはあまりに仲が良すぎる。こいつらが互いに仲違いするようにしむけて、喧嘩させたらいい気味だぞ」

と考えて、一方のサーリプッタ長老のもとへ行き、話しかけました。

「先生、あなたとモッガラーナ長老のあいだには、なにか敵対心でもあるのですか?」

「きみ、なんでまたそんなことを聞くのですか?」

「先生、あの人は『サーリプッタなんて、生まれ・家柄・国柄にしろ、知識・学問・洞察力・神通力にしろ、どう頑張っても私にはかなうまい』と、あなたの悪口を言っていました」

これを聞いたサーリプッタ長老は、ニヤリと微笑んで、

「出ていってください」

と言いました。

 この残飯貰いの男は、また別の日にモッガラーナ長老のもとへ行き、まったく同じような話をしました。モッガラーナ長老もニヤリと微笑んで、

「出ていってください」

と言いました。

 その後でモッガラーナ長老はサーリプッタ長老に会いに行き、尋ねました。

「あの残飯貰いの男は、あなたに何かへんなことを言いませんでしたか?」

「ええ、たしかに言いました。あの男は迷惑ですから追い払ったほうがいですね」

「そうしましょう」

ということで、長老たちは残飯貰いの男に、

「これからは、我々の近くに居ることをお断りします」

と言って、指を鳴らして、

「出ていけ」

と追い払いました。(指を鳴らして追い出す習慣は、日本で言えば塩をまいて追い出す様なものです。)

 彼ら二人は、仲良く無事に雨期を過ごすと、お釈迦さまのもとへご挨拶をしに行きました。お釈迦さまは二人を迎え入れると、

「心地よく雨期を過ごせましたか?」

と尋ねられました。二人が例の出来事について申し上げると、

「サーリプッタよ、いまだけでなく過去においてもその者はお前達の仲を裂こうと企てたが、やはり失敗して逃げ去ったのです」

と過去の物語を説かれました。

 その昔、バーラーナシーにおいてブラフマダッタ王が国を統治していたときに、菩薩は木の精霊として森の中の出来事を見守っていました。その頃、ライオンと虎が森の洞窟の中に住んでいましたが、一匹のジャッカルが彼らにはべりつき、彼らの食い残しを食べて暮らしていました。

 残飯を食いながらもだんだん肥え太ったジャッカルは、ある日、

「おれは色々な肉を食べたが、ライオンや虎の肉は今まで一度も食べたことがない。こいつらの仲を裂いて争うように仕向ければ、傷ついて死んだこいつらの肉を食えるだろう」

と考えました。

 そこでジャッカルはライオンに「ライオンさん、あの虎は『ライオンなんて、身体の美しさ・大きさにしろ、生まれや力強さや勇気にしても、私の十六分の一にも及ばない』とあなたの悪口を言っていましたよ」

と言いました。しかしライオンは、

「おまえなんか出て行ってしまえ。彼がそんなことを言うはずがない」

と言って、ジャッカルの言葉を全く信じませんでした。仕方なくジャッカルは、今度は虎に同じような話をしました。不審に思った虎はライオンに会って、本当にそんなことを言ったのか?と、第一の詩句を唱えました。

見栄えの良さ・生まれ・体力・攻撃力で
君は私より優れていると告げるのか

 これに応えて、ライオンは第二の詩句を唱えました。

見栄えの良さ・生まれ・体力・攻撃力で
君は私より優れていると告げるのか

 そのように、ジャッカルに言われた作り話を二人で確かめ合いました。そしてライオンは、第三から第五の詩句を唱えました。

互いに信頼しないならば
友情関係は成り立たない

第三者の話を聞いて信じるならば
友情が破れ、敵意が生じる

分裂の気持ちを抱き
常に相手の短所のみ見る者は
真の友人にならない

母の胸に抱かれている子供のように
友人のことを大事に思うならば
その友情は他人には破ることができない

 友情がいかに大事なものかとライオンに教えてもらった虎は、大変感激し、ジャッカルの言葉をライオンに確かめたことを謝りました。

 虎とライオンに怒られたジャッカルは、残飯さえも得ず、身の危険を感じ逃げ出しました。その後もライオンと虎はその場所で、仲良く暮らし続けました。

 お釈迦さまはこの説法をされて、

「その時のジャッカルは残飯貰いであり、ライオンはサーリプッタであり、虎はモッガラーナであり、その出来事をまのあたりに見ていた森にすむ精霊は実に私であった」

と過去と現在を結びつけられました。
 

◎スマナサーラ長老のコメント

 世の中にある、さまざまな人間関係の中で、友情は最高たるものです。他人の話を聞いて、友人のことを疑ったりするならば、それは互いを信頼していない、単なる上辺だけの人間関係です。只の顔見知りであって、友人関係ではありません。

 現代社会でよく見られるのは、顔見知りの人間関係ですので、トラブルが多いと思います。真の友人がいることは、最高に幸せです。
 

『ヴィパッサナー通信』2000(H12).10号 より
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