ジャータカ物語
Sabbe satta bhavantu sukhitatta
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ケチケチ大富豪の物語 (1)
出典:Illîsa-jâtaka(No.78)
 ●監修 : アルボムッレ・スマナサーラ長老/●編集 : 早川瑞生

 これは、シャカムニブッダがコーサラ国の祇園精舎におられた時のお話です。

 マガダ国にサッカラという町があり、マッチャリコーシャという億万長者の豪商が住んでいました。マッチャリコーシャはひどいケチでした。草の先の露ほどのものさえ、決して人に与えません。お金があるのにケチケチと切りつめて暮らし、鬼の住む蓮池のように誰も寄せつけずに生活していました。

 ある朝お釈迦さまは、慈悲の目で世間を見渡され、サッカラの豪商とその妻は預流果の悟りを得る能力があることをご覧になって、彼らに法を説いてあげようとお考えになりました。

 その日の前日、マッチャリコーシャはお城に出かけ、お城から帰宅する途中、男が道ばたで米粉で作った揚げ菓子をおいしそうに食べているのを見ました。豪商は、自分もすごく食べたくなりました。しかしケチな豪商は、「私が食べて、家の皆にも食べさせるはめになったらたいへんだ」とガマンしました。そのうちに、だんだん体が黄色くなって青筋が浮き出てきました。豪商は苦しくなって、寝床にしがみつくように横になりました。それでも揚げ菓子のことは、決して誰にも言わなかったのです。

 妻が心配して、「どこか悪いのではないですか」「お城で何かあったのですか」「家の者が、気に障ることをしましたか」「何かほしいものがあるのではないですか」と色々と訊いても、「別に何もないのだ」と生返事ばかりして寝ています。それでも妻が「何かほしくないですか。何でも言ってください」としつこく言うと、やっと「米粉の揚げ菓子が食べたい」と言ったのです。

 妻は、「どうして黙っていたのですか。町中の人に揚げ菓子を作って振る舞いましょうよ!」と喜んで言いました。豪商は「とんでもない!人のことは放っておけ!」と怒りました。「では近所に振る舞いましょうよ」「何という大盤振る舞い屋だ!」「では家の皆に振る舞いましょう」「何という浪費家だ!」「では家族で食べましょう」「子供たちには贅沢だ!」「では、私たち二人で食べましょう」「なぜおまえまで食べるのだ!」。 何を言われても機嫌が悪かった豪商は、「では、あなただけのために作りましょう」と妻が言うのを聞いて、やっとうなづきました。

 「台所で作ると皆にバレる。米粉と牛乳とバターと砂糖とハチミツ、それに鍋とかまどを七階の部屋に用意して、そこでこっそり作っておくれ」と豪商は言いました。妻は「はい、はい」と、言われた通りのものを準備させました。豪商は建物にも部屋にも鍵をかけ、七階の高殿の部屋の中で、やっと安心して椅子に腰掛けました。妻は豪商のために揚げ菓子を作り始めました。

 ブッダの十大弟子のお一人に、モッガラーナ尊者という神通力に優れた大長老がおられます。ブッダはモッガラーナ尊者に、「モッガラーナよ、サッカラの強欲な豪商が、揚げ菓子を独り占めしようとして七階の高殿の部屋にいる。そこへ行って教えを説き、彼の妻と彼をこちらに連れてきてください」とおっしゃいました。モッガラーナ尊者は「かしこまりました」と、すぐに神通力でそちらに飛び、豪商がいる七階の部屋の窓の外に、衣を形良くつけ、宝石の像のようにすらりと立ちました。

 一般の人には、神通力など、まず見せることはありません。モッガラーナ尊者が窓の外にいるのを見たら、誰でも驚くはずなのです。しかし欲で目がくらんでいる豪商は、その力を賛嘆するよりも、揚げ菓子を取られることを思って心臓が震えました。「こういう連中を避けて七階に来ているのに、窓の外にまで来て立っているとは!」と、鍋で煮詰めた砂糖のようにブツブツと怒りながら、「修行者よ、そこで何を得ようとしているのか。あなたが空中で歩行しても何も得られないだろうよ」と言いました。モッガラーナ尊者はその場で歩く冥想をしました。豪商が「空中で歩いてもムダだ。空中で坐っても何も得られないのだ」と言うと、尊者は結跏趺坐を組みました。豪商が「ムダだ!窓の敷居に立っても何も得られないぞ」と言うと、尊者は窓の敷居のところに立ちました。「ムダだ。たとえ香をたいても何も得られないのだ」と言うと、尊者は香をたきました。部屋全体にお香の煙が立ちこめ、豪商は目が痛くなりました。豪商は、家が火事になっては困るので「炎を出しても何も得られないぞ」とは言わないようにして、「しょうがないから一つだけ菓子をあげて帰ってもらおう」と思い、「小さな菓子を一つ作って出家者に与え、追い返しなさい」と妻に命じました。妻は少量の種を鍋に入れましたが、菓子は大きくふくれました。「妻にまかせてはおけない」と、豪商が自分で小さなお菓子を作ろうとしました。すると、前よりもっと大きくなりました。いくらがんばっても、全部大きくなるのです。根負けした豪商は、「いちばん小さな菓子を捜して一つあげなさい」と言いました。妻が小さいのを取ろうとすると、全部の菓子がくっついてしまいました。豪商が来て、一つだけ菓子を取ろうとしても、取れません。二人で両端を持って引っ張りましたが、取れないのです。一生懸命になっているうちに汗が出てへとへとになりました。豪商はやっとモッガラーナ尊者の神通力の偉大さに気づきました。そして、優れた出家者にさえケチケチしている自分がとても恥ずかしくなりました。彼は「もう私は揚げ菓子はいらない。全部お坊様にお布施しなさい」と言いました。

 妻が菓子を持ってモッガラーナ尊者のところに行くと、尊者は彼らのために、お布施について法を説きました。布施の功徳を天空の月のように説き示された豪商は、生まれてはじめて清らかな信仰心を起こしました。そして「尊者、どうぞこちらの椅子に坐ってお菓子を召し上がってください」とていねいに言ったのです。尊者は「豪商よ、正しく悟りを開いた方が、五百人の修行僧と共に僧院におられます。もしよければ一緒に師のもとに行きましょう。師はここから四十五ヨージャナ離れた祇園精舎におられます。もしお望みなら、私の神通力でお連れしましょう」と言いました。豪商の夫妻は「よろしくお願いします」とお願いしました。

 モッガラーナ尊者は、部屋の階段の下に祇園精舎の門をつなげました。豪商の夫婦は、階段を下りて祇園精舎に入りました。二人は、僧団に供養の水を献上し、お釈迦さまの鉢に揚げ菓子を入れました。師が、ご自身の生命を維持するだけ取られると、五百人の比丘たちも、次々と同様に菓子を取りました。豪商と妻も食べたいだけ取り、物乞いの人々にも与えましたが、菓子はなお余りました。余った菓子は門の近くの洞穴に捨てられました。豪商の夫婦は釈尊の傍に行って祝福の言葉を与えられ、釈尊から法話を聞いて預流果の悟りを得ました。

 翌日、比丘たちが昨日のことを話していると釈尊が来られ、「何を話しているのか」とおたずねになりました。「昨日、モッガラーナ尊者が貪欲な豪商を教化して尊師に会わせ、預流果の悟りを得させたことを話しておりました」と皆が答えたところ、釈尊はモッガラーナ尊者をほめて次の詩を唱えられました。

 ミツバチが花を損なうことなく
 蜜を取り去って行くように
 聖者は人々を損なうことなく、
 村々を歩く       (ダンマパダ49)

 そして、「モッガラーナが欲張りな豪商を導いたことは過去にもあった」と、過去の物語を話されました。

スマナサーラ長老のコメント

●この物語の教訓
■ケチの定義
 物惜しみというより、ケチといえば、それは何かと誰でもご存知だと思います。自分のものを他人と分かち合わない人のことを、ケチだと言うでしょう。その意味は、かなり甘いのです。これから、ケチの意味を理解しておきましょう。 

 ケチは、一種の精神的な病気です。ケチ菌が心に感染したら、じわじわとその人の心を蝕んでいくのです。突然発病する病気ではありません。感染したその日から病気となって、その症状がじわじわと悪化して、人を破壊のドン底に陥れるのです。最初は何の危険も感じないが、心の明るさが消えていくのです。笑えなくなる、生きることは面白くなくなる、人付き合いは嫌になる、外へ出掛けたくない。大衆を集めてお祭りなどの楽しい催し物などをやっていても、無料で参加できるのに、人混みは耐えられない。しかし、引っ込みながら、自分も参加したい、楽しみたいと、悶々と悩む。友人は皆いなくなる。次に、親戚は親戚関係を絶つ。家族はバラバラになる。一緒にいても、自分の話は聞いてもらえない。時々妻や子供が大胆な行動をとって、財産を破壊する。例えば、家を担保にして、商売をするために詐欺師たちからお金を借りる。麻薬に手を出す。暴力団に入るなどです。それから、その人の自然環境も悪くなっていくのです。台風が来たら、先に自分の家が壊れる。白蟻やねずみなどが家に住みつく。目には見えないが、不幸を招く悪霊たちが家にも身体にも取り憑く。

 それで終わらない。健康も崩れていく。治療不可能な病気にかかる。簡単な病気でも、なかなか治らない状態になる。それによって寿命が縮むか、長生きしても病弱で苦しむかのいずれかです。人格は崩れて、徳は消える。暗い思考のお陰で、心が怒り・憎しみに溢れる。一人寂しく死んで、地獄に堕ちる。たとえ人間界に生まれても、皆に嫌われる不格好な身体を持つ。子育てもできないほど経済状態が厳しい家に生まれる。ケチ菌に感染したら、症状はこのように悪化していくのです。
(次号に続く)

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