根本仏教講義
Sabbe satta bhavantu sukhitatta
HOME根本仏教講義→20.ブッダの育児論 (5)心育ては 『一生涯』の仕事
20.ブッダの育児論
(5)心育ては 『一生涯』の仕事
A・スマナサーラ長老

 先月は、誕生から死まで、私たちはいかに心を育てて幸福になるべきか、を説いている『吉祥経』の初めの項目「悪い人と付き合わず、善い人と仲良くする」についてと、「尊敬に値する人を尊敬する」の途中までお話しました。

(前号から続きます)
「尊敬に値すべき人」を尊敬する
 なぜ、お釈迦さまは「尊敬に値する人を」という言葉を加えられたのでしょうか? ただ単に「尊敬しなさい」とは教えられなかったのです。それはたとえ年齢が上であっても、犯罪や悪事を働く人、だらしない人を尊敬する必要はない、ということです。たとえば会社の上司が自分に、会社の利益のために偽りごとやごまかしなど、不正をするように命じたとしましょう。その時「目上の人だから尊敬しなければ」と考えて、命令に応じる必要はないのです。たとえ上司でも、悪事をもちかけられた時には、きっぱりと断らなければなりません。「悪いことは断る」という性格を身に付けることも、大事な道徳の一つなのです。

 子供にとっても「この人は不道徳な生き方をして、社会に害を与えている。だから尊敬する必要はない」と、悪いことを悪いことだと判断できる力を身に付けることが大切です。道徳的でなければ幸福にはなれないのですから、幼少期から、尊敬に値する人を尊敬し、その智慧を学ぶという習慣を付けてあげて下さい。

適切な環境を選ぶ
 私たちは、生まれてから死ぬまで立派で幸福に生きていることが一番大事であって、それができない環境で暮らしているなら、その場所を離れるべきです。というのも生活環境は人に大きな影響を与えるからです。

 たとえばタイ、ラオス、ミャンマーの三国が国境を接する所に黄金三角地帯と呼ばれる地域があるでしょう。そこに住む人々は、麻薬の原料となるケシを栽培して、それを売って生活しているのです。近年、大部分の地域では、政府の規制によって麻薬の生産が激減しているようですが、政府の管轄下におかれていない一部の地域では、今でもなお生産され続けているのです。そこは大変辺鄙な所で、平地が乏しいために換金作物はつくれませんし、ちゃんとした教育システムや学校もありません。ですから村の農民たちは、ケシを栽培する以外に生きる方法がないのです。彼らはそれで収入を得て、生活を営んでいるのです。もしそういう所に、日本の誰かが「土地が安いから」といって土地を買い、家族全員で移住するとどうなると思いますか? おそらくその地域を牛耳っている麻薬売買人に支配されて、その人の言いなりになってしまうでしょう。「日本人ならお金を持っているだろ、もっと品質の高い、純度が高い麻薬を生産しろ。命令に従わないと殺すぞ」と脅されて、やらざるをえないことになってしまいます。

 ですから「良い環境を選ぶ」ことはとても大事なのです。たとえ自分が生まれ育った場所であろうと、自分や家族にとって良いことがなければ、その場所は離れた方がいい。「生まれ故郷」とか「先祖代々伝わっている土地」といった価値観にしがみつく必要はありません。それよりも死ぬまで道徳的で、立派な人間として、幸福に生きる方が大事なのです。

 子供にとっても同じことで、子供に立派な教育を与えたいと思うなら、良い学校、良い教育システムがある環境に移るべきでしょう。

徳を積んでおく
 幸福に生きるためには、あらかじめ善いことをして、徳を積んでおかなければなりません。そうしないと人生は不幸になるのです。「徳を積んでおく」ということは、「悪いことをしていない」という意味でもあります。子供の時から人に知られては困ること、恥ずかしいことは何一つやらないように気を付けてください。そうすれば世界中のどこにいても正々堂々と胸を張って生きることができますから。

 たとえば、ある人が日本で犯罪を起こして外国に逃亡したとしましょう。初めのうちは「うまく逃げられた」と、ホッとして生活できるかもしれません。でももし自分が犯罪者だということがばれたら、またコソコソと身を隠して、怯えながら生活しなければならないのです。夜も安眠できません。結局、悪事を働いたら、どこへ逃げても安心して生きることはできないのです。それゆえ、悪いことは決してやらないように気を付けることが肝心なのです。

自己管理
 自分を正しく管理できる人間になること。いわゆる感情に左右されないことです。今の若者たちはちょっとしたことですぐにカッとなるでしょう。カッとなると自制心を失い、何をするかわからないのです。最近の日本では、無差別に人を刺したり殺したりという事件が多発しています。自分の一時的な感情のために、公園で寝ている人をいきなり殴ったとか、通行人を刺したとか、仕事帰りの疲れた男性をねらって暴力を振るうとか――。

 感情を抑制できず、すぐにカッとなる性格は危険です。取り返しがつかない罪を犯して、一生を棒に振ることもしばしばあります。ですから自己を管理できる人間になることが不可欠なのです。

勉強をして、技術を学ぶ
 人間は動物と違って、勉強して技術を身に付けないと生活できないのです。私たちは言葉を通してコミュニケーションをとっていますから、言葉の勉強をしなくてはなりませんし、読み書きも覚えなくてはなりません。お箸の使い方、ナイフやフォークの使い方など、幼い頃からさまざまなことを学ばなくてはならないのです。子供の時だけでなく、社会人になってからも勉強しなければなりません。会社では、年々新しい技術が開発され、システムもどんどん変わっていくでしょう。そうすると勉強をせずに怠けている人は「どうしていいかわからない、もうついていけない」と言ってどんどん後退してしまうのです。やがて若者たちに追い越され、自分の仕事や地位も危うくなってしまうのです。ですから、会社や周囲の変化に対応できるように、自分も常に新しい知識を得ていなければならないのです。それはそんなに難しいことではありません。物事をおもしろく見ていればいいのです。明日まったく理解できないほど、会社や世界が激変することはありえないでしょう。今日の延長線上に明日があるのですから、明日のことはだいたい理解できるものです。

 そういうことで、常に新しいことを知っておくなら、世の中がどう変化しても、混乱せず、それに対処することができるのです。

道徳を身につける
 勉強をして技術を習うだけでは不十分です。道徳を身に付けなければなりません。生きものを害さないとか、人の物を盗まないとか、嘘をつかないとか、約束を守るなど、いろいろな道徳を守ることです。いくら勉強ができても道徳が身に付いていなければ、幸福には程遠いのです。

言葉の管理
 感情に任せてペチャクチャおしゃべりしてはいけません。話そうとすることが、聞く人に理解できるように内容をよく考え、言葉を管理し、明確な発音で話すことが大事です。人間関係では、言葉をちょっと間違えただけで大問題が起こることがあるでしょう。何気なく発した一言が、相手のプライドを傷つけたり辱めたりということがよくあるものです。ですから言葉を使うときは細心の注意を払うべきです。『口は災いのもと』という諺がありますが、そのとおり、口からあらゆるトラブルが生まれ、最悪の場合、戦争までも引き起こしかねないのです。

 それから、子供は親の言うことをあまり聞きたがりませんが、なぜでしょうか? それは親が同じことを何度も何度も――40回ぐらい繰り返して言うからなのです。子供にとってそれはただの雑音で、うるさいだけ。だって1回聞けば、残りの39回は聞く必要がないでしょう。だから聞くのを嫌がるのです。ですから親はなるべく言葉数を減らして、大事なことしか言わないように気を付けてください。そうすれば、子供も親の話に耳を傾けるようになるでしょう。

 さて、ここまで話してきた項目は、私たちが幼少の頃から学ばなければならないことがらです。悪い人と付き合わず、善い人と付き合い、尊敬すべき人を尊敬する。自己を管理して、適切な環境を選ぶ。教育を受け、技術を身に付け、道徳を守り、言葉を管理する。このような生き方をしていると、だいたい20歳ぐらいの立派な成人に成長しているものです。それで次の仕事があります。

両親を養う
 両親の面倒をみることです。今までさんざん両親にお世話になったのですから、これからはお返しの時間です。これは人間として大変大事な仕事なのです。人間はとかく我が儘で、自分一人で大きく育ったような顔をし、「忙しいから親の面倒をみる暇がない」などと非常識なことを言う人も少なくないでしょう。しかし、今、あなたがここにいるのは誰のおかげですか? 母親と父親のおかげでしょう。両親から受けた恩を知って、両親の面倒をみない限り、私たちは幸福になれないのです。

 それから、どの程度、両親の面倒をみればいいのかという問題もあります。親が中年ぐらいなら親の仕事を助けるとか、あるいは老年で足腰が衰え、身体の自由が利かなくなっているなら、身の回りの世話をするとか。状況を判断しながら、両親の恩は一生忘れずに、感謝の気持ちをもって、やるべきことはすべてやることです。 

家族を守る
 両親の面倒をみるだけではなく、妻と子供を養い、守らなくてはなりません。ときどき奥さんを大事にしない男性もいるでしょう。ああしろ、こうしろと指図や命令ばかりして、奥さんを奴隷のように扱っている。毎日毎日、子供を育て、両親の世話をし、家の財産を管理して、家の雑事を何から何までやり、親戚たちともうまく付き合ってくれるなら、それほどありがたいことはないでしょう。「ありがたい」と感謝する気持ちがないと、幸福は来ないのです。

罪を犯さず、酒を慎む
 仕事を選ぶ時は、罪を犯す職には就かないことです。いくらお金が儲かるといえども、他人に害を与えたり、罪を犯す仕事なら、即刻やめるべきです。それから酒に溺れないこと。仕事が終わると家に帰らずに、しょっちゅう居酒屋やパブに行く男性がいるでしょう。それでは人生が台なしになってしまいます。酒を飲むと、理性を失い、何をするかわからないのです。酒というのは魔薬で(麻薬とは少し意味が違いますが)魔に言われるまま、暴力を振るったり、中傷したり、バカなことをやって罪を犯してしまうものです。ですから酒はやめた方がいい。

驕りを捨て、謙虚に
 35歳から40歳になると、仕事の面でもさまざまな経験を積み、責任を任され、社会人としての貫禄もついてくる頃です。このバリバリと仕事ができる最盛期にこそ、威張らず、驕らず、謙虚で、落ち着くことを習うべきなのです。

得たもので満足する
 欲の限度をわきまえて、足ることを知ることです。40歳ぐらいになると、自分の能力は自分でわかるものです。会社では「自分は係長までだ」とわかったら、そこで覚悟した方がいい。「課長になるまで頑張るぞ」と欲を出すと、今はリストラの時代ですから、昇進どころかクビになってしまうかもしれません。そうすると人生はさらに苦しくなる。ですから自分の能力を知り、今ある仕事を精一杯やって、充実感を得ることが大事なのです。

(この項つづく)

(スマナサーラ師講義より構成しました/文責;出村佳子)

次の講義へ→
HOME根本仏教講義→20.ブッダの育児論 (5)心育ては 『一生涯』の仕事
© 2000-2005 Japan Theravada Buddhist Association.