根本仏教講義
Sabbe satta bhavantu sukhitatta
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25.自ら試し、確かめる
(6)悟りを開いた人たち(4)
A・スマナサーラ長老

六方を拝むシンガーラ

 シンガーラ(Singâla)という名の出来の悪い若者がいました。シンガーラの父親は亡くなる直前に息子のことを心配して「六方を礼拝しなさい」と告げました。シンガーラは父親の遺言を守ろうと決意しましたが、肝心の「六方とは何か」ということを知らなかったため、どうすればよいのか分からず、東西南北上下の六方をただ闇雲に拝みました。シンガーラは「人に言われたからやる」という性格で、自分で物事をしっかり理解しようとしません。ある日、この様子を見たお釈迦さまは、シンガーラに「人に言われたからやるのではありません。ものごとには意味があるでしょう。六方の礼拝の仕方はそのようなやり方ではありません」と言い、正しい六方の意味を定義なされました。六方とは人間関係のことであり、東が親子関係、南が師弟関係、西が夫婦関係、北が友人関係、上が宗教者と在家者の関係、下が主従関係です。これらの六つの関係を正しく守るなら、安全に幸福に暮らせる、と説かれました。『六方礼経』はその経典なのです。

◇東 ―― 親子関係
子が両親に対して行うべきこと
 ・自分を育ててくれた両親を養う
 ・両親の義務を果たす
 ・家のしきたりや伝統を存続させる
 ・財産を管理する
 ・供養する
親が子に対して行うべきこと
 ・悪いことをやめさせる
 ・善いことを行うようにさせる
 ・教育を与える
 ・ふさわしい結婚相手を見つける
 ・適時に財産の管理を任せる
◇南 ―― 師弟関係
弟子が師に対してすべきこと
 ・席を立って礼をする
 ・師の用事を手伝う
 ・師の言葉を熱心に傾聴する
 ・身の回りの世話をする
 ・教えられたことを真剣に学ぶ
師が弟子に対してすべきこと
 ・正しくしつけ、指導する
 ・学んだことを忘れないように身につけさせる
 ・学問や技術を最後まで教える
 ・友人仲間に弟子を称揚する
 ・あらゆる面で弟子を守る
◇西 ―― 夫婦関係
夫が妻に対してすべきこと
 ・誉める(尊敬する)
 ・軽蔑しない
 ・不倫をしない
 ・家の権利を任せる
 ・装飾品を与える
妻が夫に対してすべきこと
 ・仕事を上手にこなす
 ・親族を大切にする
 ・不倫をしない
 ・財産を守る
 ・巧みであり勤勉である
◇北 ―― 友人関係
友人に対してすべきこと
 ・与える
 ・優しい言葉で話す
 ・役に立つことを行う
 ・友人を自分と等しいと思うこと
 ・欺かない
友人に対してすべきこと
 ・無気力になっている友を守る
 ・無気力になっている友の財を守る
 ・恐怖のある友を守る
 ・逆境に陥っている友を見捨てない
 ・友の子孫を大切にする
◇下 ―― 雇用関係
上司が部下に対してなすべきこと
 ・能力に応じた仕事を与える
 ・仕事に適した給料を与える
 ・病気になったときに看病する
 ・珍しい食べ物を分け与える
 ・適当なときに休ませる。
部下が上司に対してなすべきこと
 ・上司より早く出勤する
 ・上司より後に仕事を終える
 ・与えられたものだけを受ける
 ・誠実に責任を持って仕事する
 ・会社や上司の名誉を吹聴する
◇上 ―― 宗教家・在家者との関係
在家者が宗教家に対してなすべきこと
 ・慈しみの行為
 ・慈しみの言葉
 ・慈しみで考える
 ・門戸を閉ざさない
 ・財物をお布施する
宗教家が在家者に対してなすべきこと
 ・悪をやめさせる
 ・善に入らせる
 ・幸福を願う
 ・今まで聞いたことのない真理の教えを説く
 ・すでに説いた教えを、より明白にさせる
 ・今生だけでなく死後も幸福になる道を説く

■ 召使いのクッジュッタラ

 クッジュッタラ(Khujjuttara)という名の女性がいました。彼女はコーサンビのウデーナ王の宮殿の召使いで、毎日、花屋のスマナのところに行って、宮殿に飾る花を買っていました。ある日のこと、お釈迦さまとお弟子さまたちが食事のお布施を受けるためにスマナの家を訪れました。そこへクッジュッタラがいつものように花を買いに行ったのです。スマナはクッジュッタラに「今日は私の家にお釈迦さまとお弟子さまたちがお布施を受けにいらっしゃっています。食事のお布施が終わったら、あなたもいっしょにお釈迦さまの説法をお聞きなさい。花を買うのは、説法が終わってからにしてください」と言いました。そこでクッジュッタラは食事が終わるのを待ち、その後、説法を聞くことにしました。クッジュッタラは注意深く説法に耳を傾けていたため、説法が終わったときには、預流果の悟りに達していました。

 ところで、その日までクッジュッタラは、花を買うために王妃から預かったお金の半分で花を買い、残りの半分はねこばばしていたのです。しかしお釈迦さまの説法を聞いて預流果に悟ったものですから、『他人の財産を盗もう』という気持ちが消えてしまいました。そこでその日は、預かったお金の全部を使って花を買ったのです。宮殿に戻ると、王妃は、いつもよりたくさんの花を持っているクッジュッタラを見て、今日はなぜこんなにたくさんの花を買ったのですか、と聞きました。クッジュッタラは正直に「これまで私はお預かりしたお金の半分で花を買い、残りの半分は自分のものにしていました。今日はお金を全部使って花を買いました」と告白しました。このときクッジュッタラは『嘘をつかない』という戒律を守ったのです。王妃は「では、なぜ今日はお金の半分を自分のものにしようとしなかったのですか」と尋ねると、クッジュッタラは「お釈迦さまの説法を聞いたからです」と答えました。クッジュッタラがあまりにも率直に正直に答えるものですから、王妃は「お釈迦さまの説法はただものではない」と考えました。そして「お釈迦さまの説法とはどのようなものですか。私にもその説法を聞かせてください」と言うと、クッジュッタラは聞いた説法を、王妃と宮殿の大勢の人たちに話しました。

 クッジュッタラは優れた記憶力を持っており、お釈迦さまの説法をすべて覚えることができました。宮殿の人たちはお釈迦さまのところに行くことができないものですから、それ以来、クッジュッタラがお釈迦さまのところで説法を聞き、それを全部覚えては宮殿の人たちに説法するようになりました。現代風に言えばクッジュッタラは『歩くテープレコーダー』のような人です。彼女のおかげで、ウデーナ王の宮殿にいる多くの人たちが心を清らかにしました。
(次号に続きます)

(スマナサーラ師講義より構成しました/文責;出村佳子)

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