根本仏教講義

10.診療カウンセリング 7

心を見抜けば悩みから抜け出せる

アルボムッレ・スマナサーラ長老

先月は、決まりに縛られない柔軟な生き方のお話をしていました。その中で、潔癖性という「病気」の例を紹介しました。今月は、いろいろな方からご相談のあった例をもとに、お話を進めましょう。以下に述べる実例のポイントは本人に自分の心の状況を理解させることですので、それをふまえて読み進めてください。

神経質な人とのつきあい方

ある奥さんのご相談だったのですが、ご主人が大変マイナス思考で神経質なのだそうです。新聞の勧誘が来たので、奥さんが出ていって、何でしょうと話しているのを見て、ドアを開けたら、その男が押し入ってくるかもしれないではないかと、本気で心配する。もしも台風でも来たら家が壊れるかもしれないと言って、救命道具やいろいろなものを用意している。奥さんから見れば、いつもいつも何かに気をもんで、過剰に心配性過ぎるというんですね。そういう性質をどうやって直せばいいかというのです。

その話を聞いて、私は三つの方法を考えたんですね。

ひとつは、奥さんも、旦那さん同様に徹底的に心配するやり方です。たとえば、旦那さんが道具や包丁など、持つことがありますね。そんなとき「キャー! あなた、それを触ってケガでもしたらどうするんですか!」と、泣いちゃう。飛んでいって心配してあげる。
お風呂に入るときも、「気をつけなさい、溺れちゃったら大変ですよ」もしタオルなどを使ってそのままほおり出そうものなら、だめじゃないですか、そんなことしてタオルに細菌でも繁殖したらどうするんですかetc.etc.…。
片っ端から、何から何まで、危険性を教えてあげる。1週間くらいそれを続ければ、ご主人の潔癖症は治るはずです。包丁を持った途端に「キャー」と叫ばれたら、旦那さんも心の中に「怪我するわけないでしょう」という気持ちが生まれるでしょう。タオルをほおっておいたからって、また洗濯すればすむことなのに…と思う。そうすると、自分でも、台風が来ても必ずしも家が壊れるわけではないのだという論理が、自分の中に生まれてくるのです。このように、奥さんが旦那さんに負けぬ勢いで、心配性になること、これがひとつの解決法だと思います。奥さんも、すごく楽しいはずですよ。本当は、ちっとも心配性じゃないのに、わざとそんな演技をすることは、とても面白いことなのです。旦那さんがタバコを吸うたび、大声で、「あなた! 火事になったらどうするんですか! ちゃんとバケツに水を入れて、そばに置いておいてくださいよ」と言う間もなく、バケツに水を汲んできてそばに置いてあげる。これは即効性のある方法ですね。

もう少し時間をかけてもいいのなら、旦那の性格を楽しめばいいのです。いろいろ、冗談など言ってみるといいと思います。こんなことをやると、あなたなら、こう言うでしょう、とかあなた、今、びくびくしてますね、私なら全然平気、楽しく生きてますよ、死んだってかまいません…そんな感じで。また、肉料理や揚げ物を食べようとすると、あなた、脂肪もコレステロールも高くなって、早々に死んじゃうんじゃないかと心配しているでしょう、ま、私は美味しいものですから、それでも食べますけどね、…そんな風に何でも冗談にとって、彼の性格を全部笑いものにしてみる。でも、相手をけなすような笑い方じゃないんですね。本当に、楽しく、家族でふざけているように笑うこと。でもこの場合は、性格が治る速度は遅いのです。

三つめのやり方は、全責任を旦那さんに委ねる方法です。私たちは大変いい加減ですから、あなたがちゃんと、責任を持って見てくださいと、任せてしまう。鍵がちゃんとかけてあるかどうか、お風呂の温度がちょうどかどうか、家の台所道具はじめ、道具類がちゃんと整理されているかどうか、そんな心配事は一切、自分では心配しないようにする。全部旦那さんに任せて、もし、何かまちがったことが起きたりしたら、ちゃんとやらなかったと旦那に怒ればよいのです。たとえば何かを売りに来た人からものを買ってしまったと旦那が怒ったら、あなた、どうしてそのときに言ってくれないんですかと全部の責任を、旦那にかぶせてしまってください。そうするとその人は「正しく責任を持つ」ようになる。理にかなって心配する人になっていくらかは普通のレベルに戻るのです。方法はその三つくらいでしょうか。

激しい思い込みの中にいる人

次の例は、ご主人が宗教団体に入って神と交信しているという人です。近ごろはその神からの声が絶えず聞こえるとのこと、何をするにもその神に伺いをたてて、仕事も何回も変り長続きしません、というのです。

これはまた、大変なことなんですね。そのような場合は、奥さんにとてもいいことがあるかもしれません。何せ、旦那さんは神と交信しているのですから、旦那さんに頼んで一億円が当たる宝くじを買ってもらいましょう。神と交信しているのだから、そのくらいは頼んでくださいと。そんなことは神に頼めませんと、旦那さんは言うでしょう。でも奥さんですから旦那にわがままを言うことはできますね。あなた、そんなことを言っても、お金が欲しいんだから、とにかく神に頼んでくださいと。もし旦那さんが買わないようなら、自分で買って、旦那にあげてください。この番号をちゃんと神に伝えて、一億円があたるようにしてください、それをしてくれないなら離婚する、くらいのことを言ってみる。それで神は消えてしまうのです。そう言うことによって、自分の責任は自分で持てということがわかるはずなのです。
今は具体的な例で話をしていますが単なる冗談ではなくて、その中にはそれなりのきちんとした心理学があることを覚えておいてください。神と交信するなどというインチキを通しているということは心理学的に言うと、本人に自信がない、チャレンジ精神がない、一か八かやってみようという気持ちがないということです。だから、神に頼る。人生というのは成功もあれば失敗もある。儲かることもあれば損することもある。だから、やってみるしかない。なのに、その責任を自分で持ちたくない。たとえば仕事を変えたくなって変えたら失敗する。でも自分で責任を持ちたくない。奥さんにも「前の仕事は良かったのに今では収入もなくなって、どうするんですか」と言われる。でも自分が失敗したことを正直に認めたくないんですね。ですから、この人に必要なのは、自分のことは自分でやれ、自分に責任を持って、何かにチャレンジしていきなさい、ということです。いくら神と交信しても、宝くじは当たらないとはっきりすれば、責任逃れのために持ち出された「神」ももう言い訳にはできなくなります。

不安で眠れない不眠症の人

毎日不安で眠れないという、不眠症の人から相談がありました。そういう方々の悩み解消法は、慈悲の瞑想をすることです。眠らなくてもいいのです。不眠症というのは病気ではありません。からだに眠りが要らないから眠らないだけで、必ず眠らなければならないということはありません。それは我々の、単なる固定概念です。体が疲れ、睡眠がからだに必要になれば、夜眠れなくてもいつしか自然と眠ってしまいます。眠れないときは、頭の中が混乱状態で、ぐるぐる回転しているときなのです。眠れないことを心配する必要はありません。

そんなときは、布団に入ってやることがないわけですから、ずーっと、生きとし生けるものは幸せでありますように、私の家族は幸せでありますように、子供たちが元気に育てられますように、この日本の国が平和で豊かになりますように…そんな形で、もういろいろな良いことばかりを考えていれば、人生は確実に幸福になるのです。

拒食症

次のご相談は、拒食症で、食べたものを吐いていますという内容です。吐かないと心配なのだそうです。

それはやり方が違ってますよね。痩せるためなら食べなければいいし、食べるか痩せるかどちらかにしてほしいですね。痩せたければ食べないでいて、それを楽しめばいいのです。私は今日は食べてないよと、人にも自分にも自慢すればいいのです。でもそうしない。

本当は食べたくて、食べてしまう。そこでまた、自分を責める。そしてまた吐いたりする。どちらかにした方がいいのです。痩せたければ食べないで、骨だけになって早死にするかもしれませんが、人はそれで満足しているわけですから、問題ないのです。しかし本当は、痩せたいなら、美しく、精神的にも肉体的にもスマートになることが一番です。食べ物はちゃんと感謝して、ものすごくよく噛んで、お腹がすいているときだけ食べる。思う存分、20倍30倍、味わって、時間をかけて食べ、美味しいものが食べられて良かったという感謝をもったり、そういうような食べ方で食べていると、痩せるのです。欲が多く、でも食べた後で自分を責め、吐く。そんなことをしていると、からだの方も、危険だからと、細胞に脂肪が溜まるようにプログラムを組み替えてしまいます。ですから、やせたい方は、ものすごくお腹がすくまで待ってから、ゆっくりと楽しく美しく、気持ち良く、徹底的に味わって食べてください。食べるということは人間にとって、ひとつの大変楽しい仕事ですから、その楽しさを思う存分味わった方がスマートになるし、生きる幸福を得られるのです。

胃ガンを恐れる人

胃の検査をしたら、医者に胃潰瘍と言われたが、自分ではガンではないかと思う、もう一度別な医者に見てもらった方がいいでしょうかという相談をされた方がいます。

そういわれたら私はあなたはガンですね、別に医者に見てもらう必要もありませんよ、あなたに残された時間はあとわずかだと答えます。私のところに来る人は別に病気で来るわけじゃないですから、カウンセラーの立場で言うなら、そうなります。その人が相談する気持ちは、甘えです。ちょっと胃が痛くなったと言って、みんなから面倒を見てもらいたいのです。それで医者に行ったら、医者は胃潰瘍だと言った。もっと真剣に自分のことを心配してくれ、と頼んでいるわけです。もっと自分をかばってもらいたくて、甘えたがっている。そんなとき私が、「そうですね、あなたの言うとおり、あなたはガンですよ」と言ったとしたら、その人はすぐ私に怒って、戦いを挑んでくるのです。「なんてことを言うんですか、違いますよ、ガンではないと思って違うお医者さんにいくんです!」と。本人に理解してもらいたいことは、自分が人にかばってもらいたがっているということ。でも逆に、かばってあげるとまたいやがるのです。素直でないのです。自分がそういう性格だとわかれば、その問題は解決すると思います。(以下次号)