初めての人のパーリ語    (1〜5) (文責;小野道雄)   
HOME初期仏教研究:会員広場→パーリ語アイウエ?オ
 
 【パーリ語アイウエ?オ】 目 次 
  1. 辞書について/母音( 1.ア・アー・イ・イー・ウ・ウー)
  2. 母音( 2.エー・オー。 3.子音<有気音>。 4.ニャ。 5.鼻から抜く音)
  3. 子音6.反舌音(はんぜつおん)。 パーリ語の配列(ア行カ行ガ行ナ行、チャ・ジャ・ニャ行)
  4. パーリ語の配列(タ・ダ・ナ行、パ・バ行、マ・ヤ・ラ行、ヴァ行)
  5. 連声(れんじょう)sandhi。パーリ語文法
  6. 名詞の格変化(曲用)8つ
  7. 名詞の格変化表を見る
  8. 簡単な文章例(ジャータカ)を通して(1)
  9. 簡単な文章例を通して(2)
  10. 簡単な文章例を通して(3)
  11.  1.(2002年5月号)〜28.(2004年12月号)を1PDFファイルで更新しました。
  12. 29.〜32.(2005年4月号)PDFを追加しました。 2008.02.05
  ★ 11.以後のPDFファイル(Adobe Acrobat Readerが必要です。)
  PDFファイルを表示、印刷するための無償ソフトウェアです。
Adobe Reader ダウンロードへ
 [関連リンク]
 パーリ語で学ぶ仏教用語の世界…『心を育てるキーワード集』
パーリ語 アイウエ?オ(1)

 
 パーリ語の宿泊勉強会に参加したある大学生の話しです。 その大学生は二部の学生で昼間働いていたので、勉強会に参加するために休暇を取ろうと思い、上司に許可を願い出たところ、「なんだ、そのうちフランス旅行にでも行くつもりなのか」と言われたと言うのです。 この笑い話のようなエピソードからも、パーリ語という言葉がいかに一般の日本人には縁がないかということがお分かりいただけることと思います。

 さて、パーリ語の勉強に際しての最大の障害の一つに、一般の社会人がパーリ語を教えてもらえるような場所がほとんど存在しないということがあります。 印度哲学や仏教専攻のごく一部の大学生以外は、まず社会人向け講座でサンスクリット語の文法の基礎を教わり、その後はパーリ語の辞書片手に一人で勉強していくしかないのが現状です。
 サンスクリット語を勉強するにはどうしてもあの文字(ナーガリー文字、日本でいわゆる梵字と呼ばれているもの)も同時に学ばなければなりません。 その点パーリ語はサンスクリット語のように特定の文字というのがありませんから学習者にとっては大変助かります。 私たち日本人が実際に接するパーリ語は100%ローマ字表記だと思って結構です。 ですからことパーリ語の文字表記に関してはほとんど問題はありません。 パーリ語の辞書についてはこの後すぐお話ししますが、実際私たちが使うことになる辞書もすべてアルファベット表記ですからご安心下さい。

 いよいよこれからパーリ語自体のお話に入って行くわけですが、まず辞書について少しお話ししておきたいと思います。
 前にも申し上げたとおり、日本ではほとんど認知されていないパーリ語のことですから、英語の辞書のように書店に行けばすぐパーリ語の辞書が手に入るというわけにはいきません。 『パーリ語辞典』(水野弘元著)という辞書が『春秋社』(主に仏教関係の本を扱っている出版社で、あの『文藝春秋社』とは関係ありませんのでお間違いなく)から出ていて、これが現在日本で一般の方にも手に入るほとんど唯一のパーリ語-日本語の辞書です。(東京なら仏教書専門店の『山喜房』か『中山書房』であればすぐ手に入ると思います。)

 パーリ語の辞書を最初に手にとってびっくりするのは、見出し語がいわゆるアルファベット順ではなく、私たち日本人が使っている国語辞典同様アイウエオ順になっているということです。 これはもちろん、日本人が引くのに便利なようにもともとアルファベット順だったのをわざわざ水野先生がアイウエオ順に並べ換えてくれたわけではありません。 実はサンスクリット語やパーリ語は、もともとアイウエオ順に配列することになっているのです。(日本語の配列はそれを真似た結果だと言われています。)いずれにしても、見出し語の配列が日本語と同じアイウエオ順だということは、私たち日本人にとってパーリ語がとても身近に感じられるだけでなく、日本語の国語辞典を引く感覚でパーリ語の辞書を引くことができるのですから、これは大変有り難いことです。 ただし、アカサタナの配列など多少日本語の場合と異なる部分もありますので、それらの点についてはこれからお話ししていきたいと思います。
 そのためにも、まず、パーリ語の発音のお話から入っていくことにしましょう、と言っても怖れる必要などほとんどありません。 これも日本人にとっては有り難いことですが、パーリ語は基本的に日本語の発音でそのままローマ字読みをすればOKなのです。

 以下、発音と綴りに関する注意点をいくつかあげておきます。[ ]内のカタカナは発音を表します。


1.

 a は[ア]、 は[アー]と発音します。 ローマ字表記と同じで、

文字の上のは、その音を伸ばして発音するという記号です。

 も同様です。

 例: [アーハーラ] 食べ物
    [ジービタ] 命
    [スージュ] 真直の
※単語の訳はすべて『パーリ語辞典』に依りました。
 その他の母音と子音(日本人にはちょっと難しいものもあります)は次回引き続き御説明することにします。

patipada-2002年5月号より (文責;小野道雄)    目次へ⇒
 
パーリ語 アイウエ?オ(2)

 
2.
 この e と o については注意が必要です。
前回説明した a と i と u は上にを付ければそれぞれ[アー][イー][ウー]と長い音になりました。
 それでは同じように eと o も上にを付ければ[エー][オー]という発音になるかというと、
実は辞書をいくらよく見てもという綴りは見当たりません。
 では、もともとパーリ語にはエ、オに関しては長く伸ばす音(長音)がないのかというとそんなことはありません。
 たとえば、eka(「ひとつ」という意味)は、[エカ]ではなく[エーカ]と eのところは長く伸ばして発音します。
 o についても同様です。

は[ゴタミー]ではなく[ゴータミー]です。
 e、oについては便宜上に次のように整理して理解しておけばいいのではないかと思います。
 もともと[エー][オー]と長く伸ばす音しかない。 したがってわざわざの記号を付けて区別する必要がない。
 ただしe、oのすぐ後に子音や半母音が連続しているときは、a、i、uの場合もそうであるように短い[エ][オ]の音になる。
例えば次のような単語では eは短い[エ]になる。

 [アヴェッケッヤ]
   [アヴェッカティ](観察する)という動詞の、いわゆるジェランディヴ(未来受動分詞)と呼ばれる形で、「観察されるべき」というような意味になります)
 とにかく e、o が目に入ったら[エ][オ]と発音しないで[エー][オー]と長く伸ばして発音する癖を身に付けることが大切です。

 次は子音に関するいくつかの注意点についてお話します。
3.
 パーリ語の辞書を見ると、このようにある子音字にhが付いているものがあります。
これはいわゆる有気音といわれるもので、日本語のそれぞれカ行、ガ行、チャ行、ジャ行、タ行、ダ行、パ行、バ行を発音する時より意識的にもっと強く息を出せばいいのですが、もともと日本語にはこの有気音というのがありませんから、理屈では分かっても日本人にはやはりなかなか難しい発音の一つだと思います。 薄い紙を口の前に垂らしておいて、この音を出した時紙がかなり揺れるぐらい息が強く出ていればOKだというのですが・・・・・・、それほど気にする必要もないのではないでしょうか。

 例:
[ガータ] 殺害
 [チャンダ] 欲
 [ジャーナ] 禅
 [ダンマ] 法

 日本語には有気音がありませんから、当然ながら有気音を表すカタカナも存在しません。
 ついでに、日本語と同じ普通のチャ行はどのように表記するかというと、
hを除いてca、ci、cu、ce、co([チャ、チ、チュ、チェー、チョー])と綴りますのでご注意下さい。
 ところで、早速ですが、ce、coを[チェ][チョ]ではなく、ちゃんと[チェー][チョー]と長く伸ばして発音できたでしょうか。
慣れるまではどうしてもつい[エ][オ]と短く読んでしまうものです。

4. 
  日本語のニャ行の音です。

 例: [ニャーナ] 智恵

5. とも書く) ※以後HPではを使用することに致します。(HP管理人 注)
  これは日本語の「パン」のように鼻から抜く音だと思って下さい。

 例: [サンガ] 僧伽
    [ダンマン]は  [ダンマ]のいわゆる目的格
 

次回は、最後に半舌音(はんぜつおん)と呼ばれる子音の発音(上のがそうです)について触れたあと、パーリ語の配列(日本語のアカサタナの配列と異なる部分がありますので)についてもお話したいと思います。
その後はサンディ「連声(れんじょう)」とも言います)というやはり発音に関するお話が続きます。

patipada-2002年8月号より  (文責;小野道雄)    目次へ⇒
     
パーリ語 アイウエ?オ(3)

 
6.
 最後に取り上げる発音は、反舌音(はんぜつおん)と呼ばれる一群の発音です。 書くときには、下に「」印を付けます。
この発音も日本語にはありません。
 反舌音という名前からもわかるように、舌を反り返らせ、舌先を上顎に強く押しつけて発音します。

有気音ということで、さらに強く息を出さなければなりませんから大変です。
 
 例: [アッタ] 八
    [パティパダー] 道

 当然、有気音と同じように反舌音を表すカタカナはありませんから気をつけてください。

 以上で、パーリ語の個々の発音についての説明はおしまいにします。
パーリ語の発音は基本的にはローマ字読みで構わないのですが、なかには息を強く出す有気音や、舌を反り返らせる反舌音のように、日本語にない発音もありました。

 パーリ語は私たちにとっては、話し言葉や書き言葉ではなく、基本的に読み言葉であると言っていいと思います。 しかし、だから発音はどうでもいいというわけではありません。
 語学の現況のスタートラインが発音であるということにかわりはありませんから、ぜひ発音の勉強をきちっとなさってから次のステップへ進まれた方がいいと思います。

 さて、今度は辞書を引くときにどうしても必要になってくるパーリ語の配列についてお話ししたいと思います。
 最初にもお話ししましたように、基本的にはパーリ語は、日本語と同様、アカサタナの配列になっています。 ただし実際に辞書を引いてみるとおわかりになるように異なる部分も少なからずあります。

 ア行から順に、具体的に見ていくことにしましょう。
ア行については、[ア][イ][ウ]の短母音の後にそれぞれ[アー][イー][ウー]と長母音が来ます。
この短母音→長母音の順番は、これ以降も変わりありませんから、頭に入れておいてください。
   

 次は日本語同様、カ行、ガ行、ナ行ですが、それぞれすぐ後に有気音(息を強く出す)が来ることを頭に入れておいてください。 有気音がある場合は、いつもこの順番になります。
   
   

 次はサ行かと思うと、あにはからんや、ガ行の次はチャ・ヂャ・ニャ行が来ます。
何度も何度も辞書を引いて、ガ行の次はチャ・ヂャ・ニャ行だということを、指先が覚えてしまうぐらいになってくださいね。
   

 この後は、次回に続きます。

     
パーリ語 アイウエ?オ(4)

 
 次はタ・ダ・ナ行ですが、まず反舌音のタ・ダ・ナ行が先に来て、その後に普通のタ・ダ・ナ行が来ます。
さらにそれに有気音が加わることになりますから、これもかなり慣れないと、ついこんがらがってしまいます。
   
 
   

 日本語だとナ行の次はハ行なのですが、パーリ語ではパ・バ行が来ます。
   

 この後は日本語と同じで、マ・ヤ・ラ行が続きます。 ただし、ラ行に関しては、英語同様 r l がありますから注意してください。 順番で言えば l の前に反舌音の が来ます。

   

 パーリ語では、次はヴァ行になっていますが、これはワ行と同じだと考えて構いません。
をテーラワーダと発音してもテーラヴァーダと発音しても、実はどちらでも構わないのです。
の文字はパーリ語では使いません。

   

 そして最後がサ行とハ行で、これでパーリ語の配列はお終いということになります。

   

(補足)
 鼻母音 ()を含む単語を辞書で探そうとしてもなかなか見つからず困ることがよくあります。

たとえば [ダンサ](蚊)は (水)の直前にあるかと思うと、一方で [アンガ](部分)は ankusa(鉤)のすぐ後に出てくるといった具合です。 この配列の仕方を理解し慣れるのがまた、一苦労です。
 目的の単語を辞書でさっと探し当てられるようになってはじめて、本格的なパーリ語学習がスタートすることになります。(パーリ語の電子辞書があればとりあえず辞書で単語を探し出すという面倒な作業は必要なくなるのですが)

 この後は、次回に続きます。

 
パーリ語 アイウエ?オ(5)

 
 今回は、いわゆる「連声(れんじょう)」のお話しをします。
 sandhi とも呼ばれる連音とは、二つの音が結合することによって生じる音声上の変化のことです。
 どんなものなのか、実際に幾つか具体例を見てみることにしましょう。

  
    [ダナン メー アッティ]

    [ダナン マッティ]
    (私には財産がある)

   
    [ローカッサ イティ]
   
    [ローカッサーティ]
    (「世間の」と)

   
    [ルーパ カンダ] 
   
    [ルーパッカンダ] 
    (色蘊(しきうん)

 上の例でわかるように、ある単語の最後の音と次の単語の最初の音が結合する場合があり、その際にその二つの音が片方の音だけになってしまったり、もとの二つの音と違う一つの音になったりと、いろいろな変化をするのが連声です。

 『パーリ語文法』(水野弘元著/山喜房佛書林)の連声のページを開いてみればわかりますが、連声にはさまざまなパターンがあり、いくつにも分類されています。 パーリ語を読み慣れてくると、なんとなく「あ、この部分はサンディかな」と勘が働くようになってきます。 とにかく連声に関しても、何度も何度も具体例に接して慣れるしか他に習得の近道はないようです。

 さて、これからいよいよパーリ語の文法のお話に入ります。
次のパーリ語の文を見てください。
 
  
   [ソー マッリカン アーマンテースィ] 
   (彼はマッリカーに言いました)

 <辞書>
     sa  [サ] 彼
    [マッリカー] マッリカー
   [アーマンテーティ] 話す

 辞書に出てくる形と文中に出てくる形が違っているのにお気づきだと思います。
動詞もそうですが、特に名詞の語尾が変化していることにご注意ください。
 これを格変化、あるいは曲用といいます。
パーリ語はこのように、名詞の語尾が変化する言語のひとつなのです。
 英語はこの格変化を失ってしまいましたが、今でも一部にその痕跡を残しています。 中学校で教わったあの変化表を覚えていらっしゃるでしょうか。

   主格  所有格  目的格

   I    my   me
  you  your  you
  he   his   him
  she  her   her
  we   our   us
  they  their  them

 いわゆる人称代名詞の格変化表ですが、パーリ語は代名詞も含め、すべての名詞が格変化をします。
 上の文中で、 so は sa の主格で、英語のhe や she に相当します。 主語になっていますから、「彼は」という意味になります。
  は  の目的格でここでは「マッリカーに」という意味で使われています。
 

次回からしばらくの間、この名詞の格変化のお話が続くことになりますが、実はこれがなかなか大変なのです。

patipada-2002年11月号より                 (文責;小野道雄)  
HOME初期仏教研究:会員広場→パーリ語アイウエ?オ  次ページ↓ 目次へ⇒