始めての人のパーリ語  (6〜10) (文責;小野道雄) 会員広場へ⇒
HOME初期仏教研究:会員広場パーリ語アイウエ?オ→初めての人のパーリ語(6〜10)
 
 【パーリ語アイウエ?オ】 目 次 
  1. 辞書について ・ 母音( 1.ア・アー・イ・イー・ウ・ウー)
  2. 母音( 2.エー・オー。 3.子音<有気音>。 4.ニャ。 5.鼻から抜く音)
  3. 子音6.反舌音(はんぜつおん)。 パーリ語の配列(ア行カ行ガ行ナ行、チャ・ジャ・ニャ行)
  4. パーリ語の配列(タ・ダ・ナ行、パ・バ行、マ・ヤ・ラ行、ヴァ行)
  5. 連声(れんじょう)sandhi。パーリ語文法
  6. 名詞の格変化(曲用)8つ
  7. 名詞の格変化表を見る
  8. 簡単な文章例(ジャータカ)を通して(1)
  9. 簡単な文章例を通して(2)
  10. 簡単な文章例を通して(3)
  11.  1.(2002年5月号)〜23.(2004年7月号)を1つのPDFファイルにしました。 (121KB)NEW!!
Get Adobe Readerロゴ  11.以後は(Adobe Acrobat Reader4.0以上が必要です。)
  (PDF)ファイルを表示、印刷するための無償のソフトウェアです。
Adobe Reader ダウンロードへ
 
 [関連リンク]
 パーリ語で学ぶ仏教用語の世界…『心を育てるキーワード集』
パーリ語 アイウエ?オ(6)
 

アブラティヴ、ノミナティヴなどという言葉が盛んに飛び交っていたら、間違いなくサンスクリット語かパーリ語の勉強会です。
 パーリ語の名詞には、全部で8つの格変化(曲用ともいいます)があります。
 
  主格  ( nom. ノミナティヴ)
  呼格  ( voc. ヴォカティヴ)
  目的格 ( acc. アキュザティヴ)
  具格  ( instr. インストゥルメンタル)
  奪格  ( abl. アブラティヴ)
  与格  ( dat. デイティヴ)
  属格  ( gen. ジェニティヴ)
  処格  ( loc. ロカティヴ)

 英語の略称も含め、できれば日本語英語両方の表記を覚えてください。 ちなみに『パーリ語辞典』は英語の略称を用いています。
 それぞれの日本語の名称を見ていただければおおざっぱな用法についてはだいたいの見当がつくと思います。
 
主格(ノミナティヴ)は、主語や補語として用いるときの形です。英語も同じ用語を使っています。
 例)慧が生じた)
     主格
 
呼格(こかく)(ヴォカティヴ)は、文字通り、相手に呼びかけるときに用いられる形です。
 例) (私の比丘たちよ
          呼格
 
目的格(アキュザティヴ)も、英文法で使っている用語ですから、おおよそのイメージは湧くと思います。
 例)果物を与えた)
    目的格
 
具格(ぐかく)(インストゥルメンタル)は、「具」が「道具」の「具」であることからもわかるように、手段などを表すときに用いられます。 英語でいえば前置詞の with や by を用いるような場合に、この形が使われます。
 例) (この真理によって
           具格
 
奪格(だっかく)(アブラティヴ)の「奪」は「奪う」という意味です。
ふつう「〜から奪う」といいますから、英語でいえば前置詞の from などを使う場合に、この形が用いられます。
 例)妄語から離れること)
     奪格
 
与格(よかく)(デイティヴ)の「与」は「〜に与える」の「与」ですから、「〜に」というような意味を表したいときに用いられます。
 例)彼に果物を与えて)
    与格
 
属格(ぞっかく)(ジェニティヴ)は、英語の所有格に相当します。
 「〜の」という意味を表したいときに用いられます。
 例)他の人たちの過ち)
      属格
 
処格(しょかく)(ロカティヴ)の「処」は「所」と同じですから、「〜で、〜に」というように場所を表したいときに用いられます。
 例)鹿野園に住んでおられた)
      処格
 

 
パーリ語 アイウエ?オ(7)

 
 『パーリ語辞典』をお持ちの方は、ぜひ、最後の『曲用』のページをご覧になって下さい。 約10ページにわたって名詞の格変化表が載っています。 代名詞・形容詞の格変化表まで含めれば10ページ以上にもなります。
 この膨大な量の変化表を見ただけで、「えぇ! この表を全部覚えるなんて不可能だよ!」と、学習意欲などどこかに吹き飛んでしまいそうです。

 しかし最初から構えてしまう必要もありません。何はさておき、名詞の格変化表を実際に見ていくことにしましょう。

  - a 語基   m. 男性  例 buddha
                sg.
 nom.    - o    buddho
 voc.    - a     buddha
 acc.    -    
 instr.    - ena    buddhena
 abl.    -     
       - a to    buddhato
       -   
       -   
 dat.    -    
       - assa    buddhassa
 gen.    - assa    buddhassa
 loc.    - e      buddhe
       -   
       - amhi    buddhamhi
 
                pl.
 nom.    -     
 voc.    -     
 acc.    - e     buddhe
 instr.   - ehi     buddhehi
       - ebhi    buddhebhi
 abl.    - ehi     buddhehi
       - ebhi    buddhebhi
 dat.    -   
 gen.    -   
 loc.    - esu    buddhesu

 一番上に書いた「- a 語基」というのは、もとの形の語尾が - a だということです。 『パーリ語辞典』の見出し語はすべてこの語基の語尾になっていますので注意してください。
その次に「m. 男性」とあるのは、この名詞がいわゆる男性名詞であることを示しています。 フランス語やドイツ語同様、パーリ語の名詞にも性別があって、すべての名詞は男性名詞、中性名詞、女性名詞のいずれかに、必ず分類されます。 「男性」の前のm. は英語のmasculine(男性)の略称です。 同様に中性名詞はn.neuter)、女性名詞はf.feminine)の略称を用います。

 表の左側の英語の略称は、前回説明したように、それぞれの格の英語表記の略称です。
そのすぐ隣の -に続く部分がそれぞれの格の語尾です。 そして一番右が実際に格変化した名詞の形ということになります。 さらに、sg.、pl.とあるのは、それぞれsingular(単数形)、plural(複数形)の略称です。

 一体、パーリ語の名詞は何通りに変化するのでしょうか。
格が8つ、それぞれに単数形、複数形がありますから、単純計算すれば8×2で合計16の形があることになります。 同一の格に語尾の形がいくつかある場合がありますから、実際には16よりも多くなることもあります。 逆に同一の語尾がいくつかの格を表すこともあり、その場合は実質的には16よりも少なくなることになります。

 これ以上煩雑な説明は避けたいと思いますので、とにかく『パーリ語辞典』の変化表の部分を最後までご覧になってみて下さい。 男性名詞、女性名詞、中性名詞、そしてそれぞれいわゆる語基の違いによって、多くの変化のタイプに分類されているのがよくお分かりになることと思います。

 ここで具体的にパーリ語の簡単な文章を通して、これまでお話ししてきたその他のポイントについても再確認しながら、名詞の格変化の実際について見ていきたいと思います。 なお文には原則的に動詞があるわけですが、動詞についてはまだ説明していませんので、とりあえず名詞にだけ注目していただくことにして、動詞は無視していただいて結構です。 
 

 
パーリ語 アイウエ?オ(8)
 

 次の文章は、いわゆるジャータカ(前生譚)の一つで、日本人にもなじみのある(あった、の方が正確でしょうか)sasaは『兎』の意味)、兎が施しとして我が身を火中に投じたあの有名なお話のなかからとったものです。

(前略)
 
 

 今回は、先生と生徒のやりとりという形式で、実際のパーリ語の勉強会の雰囲気を出しながら解説していきたいと思います。 Tは先生、 ABは生徒ということにします。

T: それでは最初の文を、A君からお願いしましょうか。

A: はい。 ボーディサットー ササヨーニヤン ニッバッティトゥヴァー アランニェー ヴァサティ。

 まず、ボーディサットーは「菩薩」という意味の男性名詞bodhisatta [ボーディサッタ] のシンギュラー(単数)、ノミナティヴ(主格)で、「菩薩は」という意味になります。

 次のササヨーニヤンというのは「兎」という意味のsasa [ササ] と「子宮」という意味の女性名詞yoni [ヨーニ] の合成語(コンパウンド)sasayoni [ササヨーニ] (兎の胎内)のシンギュラー(単数)、ロカティヴ(処格)で、「兎の胎内に」という意味になります。

T: 今、A君が合成語という言葉を使いましたが、パーリ語を勉強していくうえで、この合成語、普通、「コンパウンド」といいますが、このコンパウンドというのが実はとても大切なのです。
 コンパウンドについては後でまた、詳しく説明したいと思っています。
 それでは続けてください。

A: はい。 次のニッバッティトゥヴァーというのは、nibbattati [ニッバッタティ] (生ずる)という動詞のジェランドですから、ここでは「兎の胎内に生じて」ぐらいの意味になると思います。

 アランニェーは、「森」という意味の中性名詞 [アランニャ] のシンギュラー、ロカティヴで「森に」という意味になります。
 最後のヴァサティは「住む」という意味の動詞の三人称単数現在形ですが、ここでは過去を表していると考えた方がいいと思います。
 結局、全体では「菩薩は、兎の胎内に生じて森に住んでいらっしゃった」となります。

T: ジェランドという言葉も出てきましたが、動詞に関することなので、これも後で説明することにします。とりあえず「〜して」などと訳しておいてください。
 A君の説明で特に問題になるところはなかったと思います。 この文はちゃんと主語と述語動詞がありますから、それほど難しくはないはずです。

 最初のが主語で、最後のが述語動詞です。
(兎の胎内に生じて)と(森に)は、それぞれ副詞句と副詞ということになります。このように基本的な文の構造がわかれば、あとは前後関係などを考えながら意味を考えていけばいいのです。
 それでは、同じ要領で今度はB君、次の文をお願いします。

B: うう〜ん、どうもよくわからないのですが……。 とりあえず個々の単語についてわかる範囲のことだけ言ってみます。

T: それでいいですよ。 B君がわからないところは、A君もぜひ手伝ってやってください。

A: はい。わかりました。

B: タッサ パナ アランニャッサ エーカトー パッバタパードー エーカトー ナディー エーカトー パッチャンタガーマコー。
 

 
パーリ語 アイウエ?オ(9)

 先月に続いて、先生Tと生徒A,Bの会話形式で進めていきます。

 

B: 
   
  タッサ パナ アランニャッサ エーカトー パッバタパードー エーカトー ナディー エーカトー
  パッチャンタガーマコー。
  ええと、最初のタッサというのはたぶん、「それ」という意味の tad のジェニティヴ(所有格)のtassa[タッサ]ではないかと思うのですが‥‥。

T:そのとおりです。 この場合は次のがジェニティヴ(所有格)ですから、それに合わせて tad もジェニティヴになっていると考えてください。

B:次のパナはちょっと飛ばして、アランニャッサは、今、先生がおっしゃったようにジェニティヴ(所有格)で、「森の」という意味になると考えて、両方合わせて「その森の」という意味になります。

T:そのとおりですね。

B:次のエーカトーというのは、辞書を引いたら、adv.と書いてありますから、アドヴァーブつまり副詞で、さらにeka[エーカ](一つ)のabl.つまりアヴラティブ(奪格)とも書いてありますが、なんだかよくわかりません。 意味は「一方では」となっています。

T:この [エーカトー]というのは、もとは eka [エーカ](一つ)のアヴラティブ(奪格)なのですが、アヴラティブが副詞になってしまう場合があるのです。 実は、このような現象は、アヴラティブだけでなくアキュザティヴ(目的格)などでも起こります。 このことを知っているととても役立ちますから、ぜひ覚えておいてください。

  たとえば、[ニッチャカーラン]などという副詞も、もともとはアキュザティヴだったものが副詞になったものです。  [ニッチャ](常の)という意味の形容詞と  [カーラ](時)という意味の男性名詞の合成語(常の時)の単数、目的格ですから、本来は「常の時を」というような意味になるのですが、この場合は「常の時に」すなわち「常に、いつも」という意味の副詞になってしまっているのです。

B:先生の説明を聞いても今ひとつピンときませんが、とりあえず次に行ってみます。

  [パッバタパードー]ですが、 [パッバタ]が「山」という意味の男性名詞で、その後の[パードー]は「足、麓」という意味の男性名詞[パーダ]の単数、主格で、あ、これは、さっき先生がおっしゃったコンパウンド、合成語ですね。

T:そうです。これも合成語、コンパウンドですね。 B君、なかなか調子いいじゃないですか。
  「山の麓」という意味になりますね。 それでは、とりあえずここまではどういう意味になりますか?

B pana [パナ]は、「また」ぐらいにしておきます。 そすると、「また、その森の一方では山の麓は」となるのですが、その後との意味のつながりを考えると、何を言っているのかわからなくなってきてしまうのですが‥‥。

T:「山の麓」が主語だというのはいいと思いますよ。それでは述語動詞はどれですか?

B:んん〜。それがわからないんです。動詞がどこにもないような気がするのですが。

T:そう、動詞はないのです。

B:え?

T: A君はどう思いますか?

A:はい、サンスクリット語もそうですが、英語のbe動詞に相当する動詞はパーリ語ではよく省略されますから、この場合も「ある」という意味の動詞が省略されていると考えればいいと思います。 そうすれば「また、その森の一方には山麓があり」、もうちょっと自然な日本語にすれば「また、その森の一方には山麓が広がっており」といったところでしょうか。

B:なるほど、そうすると、その後も同じパターンだと考えればいいわけですね。
[エーカトー ナディー]、
(川)の主格で「川が」になりますから、「一方には川があり」となるわけですね。
「一方には川が流れており」、ですね。

 
パーリ語 アイウエ?オ(10)

(先月の続きです)

 
T: それでは最後の部分も、B君お願いします。

B:はい。 これもさっきとまったく同じパターンですね。 [エーカトー] が「一方的には」という副詞。paccanta [パッチャンタ] は名詞と考えても形容詞と考えてもどちらでもかまわないと思います。 「辺地、辺地の」という意味です。 [ガーマコー] は「小村」という意味の男性名詞 [ガーマカ] の単数主格です。 この場合もコンパウンド(合成語)になっています。 結局、意味は「人里離れた小さな村があった」といったところでしょうか。

T:いやー、B君もかなり要領がわかってきたようですね。 その調子ですよ。 ねえ、A君もそう思いませんか。

A:ええ、たいしたもんですよ。

B:そんなに褒めていただくと恥ずかしくなってしまいます。まだまだわからないところだらけですから、これからも自分なりにこつこつとやっていきたいと思っていますので、先生もA君もどうかよろしくお願いします。

T:それでは最後に、全体を訳しておくことにしましょう。
「菩薩は、兎の胎内に生じて森に住んでいらっしゃった。 また、その森の一方には山麓が広がり、一方には川が流れており、一方には人里離れた村があった。」

 いかがでしたでしょうか。 パーリ語の勉強会の雰囲気のようなものを少しでも感じ取っていただけたでしょうか。
 さて、ここでまた、文法の説明に戻らせていただくことにします。

 今回は、いよいよ動詞です。
名詞の変化(曲用)も大変でしたが、パーリ語の動詞の変化(ふつう「活用」と呼んでいます)もそれに劣らず大変です。

 これも、まずは『パーリ語辞典』の最後の動詞の活用のところを見ていただきたいと思います。 全部で20ページはあるでしょうか。 思わずため息が出てしまいそうです。
 いちいち説明していってもあまり意味がありませんから、名詞同様ごくおおざっぱな説明だけにとどめることにします。 細かいことについては、そのつど文法書をご覧になって確認していただければと思います。

 動詞の変化は、意味のうえでは、時間を表す場合とそれ以外の場合の2つに分けて考えればいいかと思います。

 時間というのは、いわゆる現在形、過去形、未来形、完了形などと呼ばれているもののことです。 パーリ語はこれらを、すべて動詞の語尾を変化させることによって表します。

 ここではそれらを代表して[ガッチャティ](行く)の現在形がどのように活用するのか見てみることにしましょう。

  
     能動
     sg.
1.- 
2.- 
3.- 
     pl.
1.-  
2.-  
3.-  

 『パーリ語辞典』には、この下に「反照」と書かれた変化表が載っています。 この「反照」については、文法書にいろいろと説明も載っていますが、実際にパーリ語の文章を読んでいくうえでは、ほとんど支障がありませんから、「こういう風に変化する場合もあるのだな」ぐらいに思っていただければ充分かと思います。

 次回は具体例をとおして、実際に文中に出てくる動詞の現在形を見ていきたいと思います。

patipada-2003年 4月号より                               (文責;小野道雄)
  
HOME初期仏教研究:会員広場パーリ語アイウエ?オ→初めての人のパーリ語(6〜10)