智慧の扉

2013年3月号

なぜ輪廻転生してしまうのか?

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 生きることは苦しい。それなのに、人はなぜ輪廻転生を繰り返すのでしょうか?

 それは、「生きていきたい」という強烈な執着があるからです。死ぬ時も悔しいから、また生きたいと思うのです。これは認識プロセスのミスなのです。いくら苦しくてもそれを認めたくないから、脳が幻覚を作って「生きるのは楽しい」と思わせてしまうのです。

 私たちはいつでも、「明るい明日がある」と自己暗示をかけて生きています。そうやって、死ぬまで暗いみじめな人生を過ごすのです。明るいのはいつでも、「明日」ですからね。自分で自分に暗示をかけて、苦しみのなかで這いずりまわって生きているのです。明るい明日を妄想して、とにかく生きていこうとする執着が、人間を輪廻の網の中に閉じ込めているのです。
 
 お釈迦様は、「そんなもの放っておけ」と仰るのです。いまを明るく、ニコニコといればいいだけ。この瞬間この瞬間で充実してみればいいのです。余計な欲さえなければ、すぐに実践できますよ。でかけるたびに新しい服を着たがる。あるものを着ればいいのに、その服に満足できない。もっと他の服があればいいのに、と思うと苦しいのです。お腹が空いていて、白いご飯と沢庵しかなかったとしましょう。それしか選択肢がないのだから、気持ちよく食べればいいでしょう。なぜ頭の中で、過去やら未来やらを持ちだすのでしょうか。「なんでこんなものしかないのか」と思ってしまったら、最悪に不幸でしょう。
 
 瞬間瞬間、充実感を味わって、選択肢などないのだと思って生きれば、いつでも穏やかに生きられます。そういう生き方が、私たちを輪廻の終焉へと導くのです。今日を明るく生きる代わりに、「明るい明日」を目指すと、輪廻転生を続けることになるのです。