智慧の扉

2013年6月号

「自我の幻覚」への処方箋

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 自分になんの中身も無いと、どうしても威張りたくなるもの。自我を張れば張るほど、その人は空っぽです。俺が俺がとベラベラ喋り続ける人ほど、徹底的に自信がないのです。中身が充実した人は、自我の幻覚にすがる必要がないから、謙虚に落ち着いていられるのです。

 私たちは無始なる過去から、厄介な「自我の幻覚」で悩んできました。これはたちの悪い問題です。とどのつまり、仏道とは自我の錯覚を脳・こころから取り除く方法なのです。

 ポイントは思考です。人の悪いところばかり考えたり、「アイツはどうしてああなんだ、もっとこうするべきじゃないか」などと他人に腹立てたりするのは、人間が小さい証拠です。いちいち悩んでいると、こころが小さくなります。小さなこころには、「怒り」が棲みつくのです。

 いつでもおおらかに、「まあまあ、そんなもんだ」と思うことです。大きな人間は、おおらかなのです。ひとは自由なのだから気にしないこと。余計なことまで管理しようとしないこと。他人のことは考えずに放っておきましょう。他人を指さす思考が回転しだしたら、「頭の中でクソ(排泄物)をかき回しているのだ」と本気で念じてください。

 そうやって、思考にはとことん気をつけることです。広くて大きなこころを育てれば、自我の幻覚は次第に減っていきます。

 お釈迦様の教えを学んで、それについて考えてみることも効果的です。くだらない妄想に費やす時間を、仏教について考察する時間に入れ替えれば、こころは伸びやかになります。

 自我の錯覚を完全に無くしたければ、自己観察すること。自分を観察すると、自我を張るたびに人が不幸になっていると気づくのです。「いま自分の自我が牙を向いたな」と自分で発見するたび、自我の幻覚は消えてゆくのです。