智慧の扉

2017年10月号

妄想に気づくと、心が成長をはじめる

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 心には活動するためのエネルギーが必要です。心が肉体を動かして生きている。そのためにエネルギーがなければいけません。なぜ太陽が自転しているのかと言えば、膨大なエネルギーがあるからです。太陽が燃えているということも、途轍もないエネルギーがあるからです。太陽は核融合し自分でエネルギーを作って燃え続けているのです。心も太陽と同じくエネルギーを作らなければ活動できません。
 
 このエネルギーに仏教の専門用語で「サンカーラ(行)」と言います。私たちは眼耳鼻舌身意という六根からエネルギーを作ります。どうやって眼からエネルギーを作るのでしょうか? 眼に色(物質)が触れて認識が起こります。見た・見えた(視覚)と感じた瞬間でエネルギーが発生する。そのように六根に六境(色声香味触法)が触れて起こる認識から絶えずエネルギーが生まれているのです。
 
 眼耳鼻舌身から発生するエネルギーには限度があるので、心は妄想・思考することで絶えずエネルギーを増幅させています。肉体が物質を受け取ると疲労というものが付いてきます。ですから、ずっと認識し続けることはできません。そこで心(意)が勝手に妄想します。たまに思考もします。妄想・思考することで、すごいエネルギーが生まれてくるのです。
 
 生命には「生きていきたい」という存在欲がありますから、眼耳鼻舌身よりも強いエネルギーを作りだす自分の妄想を大事にするのです。自分の考えること、思考を大事にするのです。それは止めませんし、止めたくないのです。眠っていても妄想は止まりません。なぜならエネルギーが無くなることに危機感を持つからです。

 妄想は貪瞋痴の働きによって生じるものです。これは悪い結果を出すエネルギーです。そのエネルギーでは心は成長せず、自動的に堕落する・不幸になるのです。私たちがやるべきことは、心を観て管理すること(自己観察)です。自然の流れに任せては上手くいきません。心にアクセスする方法は、感情から起こる概念の回転である妄想に気づくことです。

「いま・ここ」に気づくこと、これがヴィパッサナー冥想であり、ブッダが教えた覚りに達するための方法なのです。気づくことで一切の妄想ができなくなってしまう。そうすると自動的に心は成長するしかなくなるのです。