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ブッダの経営論

ビジネスリーダーの人間力 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

「欲しい」と「必要」の違い

私は商売や会社を経営している人から、「あなた方は欲をなくせと言うでしょう。欲がなかったら商売はできません。仕事ができませんよ」とよく言われます。それに対し私は、「つぶれるのは欲があるのだからでしょう。欲張ったから全部つぶれるのでしょう」と反論します。「儲かる=欲」ではないのです。しかし、みんなそこを一緒にしてしまいがちです。
社員に点数制度をつくったりして、日本でもアメリカでも「これぐらい頑張ったら、これぐらいボーナスをあげますよ」などというシステムを使ったりしています。だから会社の中で個人がいろいろ工夫して、たくさん儲かるようにと頑張ろうとします。そこで管理者は、社員に仕事をさせたと勘違いする。社員たちはたくさん儲かりたいという欲で動いただけです。
その場合、社員は自分個人の収入を上げることだけ考えて、会社のシステムはどうでもいいことになるのです。
ですから、社員一人ひとりに個人的に欲という餌をまいてしまうことはよくないのです。

儲かることは、問題ではありません。欲が問題なのです。
なぜかというと、欲が入ったとたん、理性がなくなるからです。それを理解するために、私は言葉を二つ使います。「欲しい」と「必要」です。この二つを憶えてください。

私たちは「欲しい」といえばいくらでも欲しいのです。きりがない。だから「欲しい」という感情はウイルスのごとく、我々が徹底的に避けるべきものなのです。
欲しいという感情を避けて、「必要」という基準で生きるのです。必要なものであれば、いとも簡単に得られます。
この世界がなぜゴチャゴチャなのかといえば、誰もが「欲しい」で生きているからです。「必要」で生きれば、世界はいつでも満たされています。自然の因果法則というところから見れば、世界で1,2分に2,3人の割合で子供たちが栄養失調で死んでいるという現状は、あまりにもおかしいのです。「欲しい」人々が権力を振るってたくさん物を取ってしまうから、必要な人々に物資が届いていないのです。

仕事も、「必要」という基準でしてみてください。ものすごく楽になります。部下にも「これが必要だよ」と言えば、やってくれます。格好をつけるために朝七時に出勤しなくてもよいのです。
もし仕事がたくさんあって「これが必要だけれど、朝七時ぐらいに来なければできない」となれば、みんな何のことなく来るのです。「会社が儲からないから七時に来い」と言われても、やはり来るでしょうが、それは強引で、恐ろしいやり方です。
「必要」という言葉を我々が理解できれば、人間は幸福なのです。欲がからむと我々の能力は低下します。理性がなくなります。判断を間違えます。それで失敗します。欲があると、すごくストレスがたまるのです。

競争と怒りは別物

皆、競争がありがたいと思っています。それで、また間違いが起こるのです。
競争は怒りがからむのです。怒ることは大変な猛毒です。ライバルをつくるのです。怒りはとんでもない代物です。なぜ余計に敵をつくるのですか。敵をつくったら攻撃するでしょう。

私は競争が悪いとは言いたくないのです。競争と怒りをかみ合わせないように、ということです。私が言う競争は力比べで、ただ足が速い人は一位になる、それだけの話です。二位になった人は、別に敵ではないでしょう。なぜそれくらいのことを理性で考えられないのでしょうか。会社同士でも、能力のあるほうがたくさんお客さんを取るのだと考えます。将棋をさす相手は、とんでもない敵ですか。
現代社会では、とにかく会社やら学校やら、いろいろなところで子供たちに最初から嫌な気持ちを教えています。そうなってくると周りが敵ばかりで、生きていられなくなります。怒りが入ってくると能力はひとかけらもなくなります。
怒りは猛毒なのです。

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ブッダの経営論
ビジネスリーダーの人間力 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2013年