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ブッダの経営論

ビジネスリーダーの人間力 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

仕事を宗教だと勘違いしている日本人

日本では、多くの人が仕事を宗教だと思っているのです。何を犠牲にしても仕事をしなければいけないのだと考えている。しかし、仕事は収入を得るためにやっていることで、「何があっても仕事をしましょう、徹夜しなさい、次の日も朝早く来なさい」と言われると、すべてが壊れてしまいます。そこを理解したほうがいいです。
仕事というのは生きるためにしている一つの行為であって、人生そのものではありません。人生は別なものなのです。生きるために仕事をするのであって、死んでも仕事をしろ、ではないのです。

子供の顔を見ない、子供の成長を見ない、奥さんがどういう状況でいるか知らない、会社で仕事ばかりしている、というケースはたくさんあるでしょう。本当に不幸なことです。会社では立派かもしれませんが、退職すると家庭に居場所がない。それでは人生は失敗です。

いつでも人生は女性中心でいくべきなのです。我々は人間で、人間を産んで育てるのは女性たちなのです。だからいろいろなことを判断するときには、まず奥さんの判断を聞いて、自分の考え方も合わせて、ではどうしようかと決めるべきです。そうではなくて「おれは仕事だから、おまえが家のことはやりなさい」と、生きることは完全に奥さんに任せてしまって、「おれは金を持ってくる」という態度は、完璧な間違いなのです。
我々は家族で一緒に生きているのです。生きるために家賃を払わなくてはいけないし、ご飯を食べなくてはいけないし、服を買わなくてはいけないし、学費を払わなくてはいけない。仕事は家族を幸福にするためにやっているものなのですから、もし自分の仕事で家族が幸福にならないならば、考え直したほうがいいです。
どんな管理者であっても、家に帰って「仕事が苦しくて大変だ。嫌だ嫌だ」と悩んでいるならば、かなりの失敗者なのです。何のことはない、家に帰って気持ちよくご飯を食べて風呂に入り、子供たちと遊んだりすることができれば、会社でも成功しているし、家庭でも成功しているのです。

仕事は宗教だと勘違いして、生きる幸福と楽しみを犠牲にして頑張っているのに、それを何とも思わない気持ちは、仏教用語でいうならば「無智」です。欲と怒りと無智で経営をしなさいと、皆さんが読んでいる本には書いてあるでしょう。仏教では「それは全部間違っているのだよ」と言っているのです。

貪瞋痴で経営すると巨大企業でも破綻する

むさぼり、怒り、無智だけで経営をすると、リーマン・ブラザーズのような巨大な会社でもあっけなく倒産します。好き勝手なことをやって倒産して、世界中が困っているのです。日本の会社がチャンスとみてそこを買ったりしていますが、私は危ないと思います。そこに本当に立派な人材がいるのだったら、倒産するはずはありません。すごく恐ろしい商売をしていたのでしょう。インチキだったのです。なぜ詐欺までやるのかといえば、やはり「貪瞋痴」、むさぼり、怒り、無智があるためなのです。

お釈迦様は、「競争はあっても構わないし、儲からなくてはいけない。しかし、だからといって欲しい欲しいでいくのではなくて、必要ということでいきなさい」とおっしゃっているのです。

例えば、社員が四百人いるならば、社員は家族を養うぶんまでお金を稼いで生活しなくてはいけないから、会社としてはこれぐらい儲かる必要がある。それから、毎年新しい若者が大学を出てくると、一年にこれぐらいの新しい社員を入れる必要がある。それには、これぐらい儲からなくてはいけないのだと考える。すごく具体的なのです。世界一になってやるぞとか、とんでもないことを考えるといけないのです。そういうアプローチでいけば、自然の流れでやがて世界一になります。

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ブッダの経営論
ビジネスリーダーの人間力 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2013年