施本文庫

ブッダの経営論

ビジネスリーダーの人間力 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

質疑3:理想社会は実現するのか

Q:世界を見ると、戦争もなくならないし、貧困もどんどん増えています。スマナサーラ長老のような考え方を世界中の人がすれば、きっと平和な世界になると思うのですが、宗教の違いもあるし、なかなかそれを乗り越えられないのが我々なのだと思います。スマナサーラ長老は、近い将来、宗教や民族、国の違いを超えて、皆が平和に暮らせるような世界が来ると思っていらっしゃるのでしょうか。

A:本当は宗教を捨てて、お釈迦様のおっしゃった現実主義で世界がいけるならば何の問題もないのですが、お釈迦様も教えただけで人間皆が貪瞋痴をなくして清らかな心で生きるだろうと思ってはいなかったのです。理性のある一部の人々だけが、お釈迦様の言葉に耳を傾けるのだと知っていました。いくら正しい道を教えてもそれに反対する人々はいるし、反対する人々が多数派にもなるのです。これは社会の現実です。

この状況を気にし過ぎて、社会には将来がないと思ってしまうと、悲観主義者になってしまいます。悲観主義者になると自分が苦しくなります。ですが、反対に楽観主義者になってこれから皆で頑張って社会の問題をすべて解決して平和な世界を築きましょうと考えても、夢ばかり追う人になります。それも意味がありません。ですから、もっと現実的に、「私に何ができるのか 」というように考えるのです。

エコロジーの問題を指摘して、将来は暗いと言う人がいます。私もエコロジーの問題は知っていますが、偉そうなことは言わないで、自分のできる範囲で資源を守っています。シャワーも流しっぱなしにしませんし、要らない電気は全部消します。そういうように、私は自分なりに頑張っているのです。それ以上は、何もできません。私たちは、自分にできることをやるしかないのです。

質疑4:明るく生きるための合言葉

Q:むさぼりや怒り、無智はよくない。管理者として部下を育てるために、向上しなければいけないということはよくわかりますが、心を強くするために冥想をするといっても、時間がかかることなので会社に勤めているとなかなかできません。そこで、いつも過ごしている中で何か一つ、例えば常に明るく生きていこうとか、朗らかに生きていこうでもいいのですが、そういう合言葉のようなものがあるとすれば、スマナサーラ長老はどのようにお考えですか。

A:そういう合言葉を、私は十二分に提供しています。例えば「過去にひっかからない。将来を夢みて時間を無駄にしない。今に集中して今の仕事を完璧に行う」という合言葉はとても有効だと思います。

さらに、私が紹介している瞑想は時間を全然取りません。朝から寝る時間のあいだで、その生き方の中で観察をするという瞑想なのです。ご飯を食べながら観察して、瞬間、瞬間、集中する。そういうやり方だから、時間を取りません。歩く瞑想とか、ご飯を食べるときの瞑想とか、そういうようなことを教えて、あまり時間を取りません。ただ、最初にきちんと時間を取って学ばないと、実践は難しいのです。

その観察瞑想の代わりに何か言葉として必要であるならば、唱えてほしい瞑想文句があります。寝る前に「生きとし生けるものが幸せでありますように」という慈しみの言葉を心の中で唱えるのです。眠りにつくまでずっと唱えると、脳にそれが記録されます。

そして朝起きたら、あれやこれやと欲の思考が現れる前に、またそれを唱えるのです。これを二~三週間続けると、心から怒りや欲が消えて、何か別の人生哲学が現れてくるのです。何となく、無色透明に現れてくる。わざわざ人々のために何かしようという、そんな偉そうなこともないし、ただ当たり前に、「みんな幸せであればありがたいのではないか」ということで、自分のすることで人も助かってほしい、幸福になってほしいという、そういう気分になるのです。

パン屋さんで菓子パンを売るとします。客に「百円です」と言いながら、「このパンをおいしく食べて、楽しくなってほしい、幸せになってほしい」という気持ちを持っていることにします。それでじゅうぶんです。それで、心はものすごくきれいになるのです。やがて「生きとし生けるものが幸せでありますように」と、無制限に、無量に生命を慈しむことができるようになります。

人間だけではなく、生命は誰であろうとも。その気持ちがあれば、中国で起きたメラミン混入事件(2008年)のような残酷なことは起こりません。あの事件では、赤ちゃんが六人以上亡くなっているでしょう。私は世の中に少々のことが起きても、まぁ仕方ないなあ、という気持ちにならないでもないのですが、子供たちのことだけは……。あの事件を起こした人々には、「生きとし生けるものが幸せでありますように」という気持ちがなかったのでしょう。儲かればいいのだという精神です。
ですから、この「慈しみの瞑想」の言葉を朝晩唱えてみてください。それには時間を取りません。布団に入って唱えればいいのですから。

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ブッダの経営論
ビジネスリーダーの人間力 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2013年