施本文庫

わたしたち不満族

満たされないのはなぜ? 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

3 不満と苦の監獄

 ◇感情に従えば苦しみが増える

感情も、人生を「不満と苦の監獄」にしています。

たとえば、イヤなことがあったとき、家族や周囲の人たちに当たり散らして、怒鳴ったり暴言を吐いたりする人がいるでしょう。
なぜそんなことをするのかといいますと、憂さを晴らして気分がよくなりたいとか、ストレスを発散させたいとか、そうすることで幸せになりたいと思っているからです。

でも、そんなことをして、幸せになれるでしょうか。

なれません。感情に任せて相手を害しても、気分が晴れることはありませんし、問題は解決しないのです。
チョコレートが好きだからといって際限なく食べ続けたらどうなるでしょうか。食べているときは「好きなものが食べられて幸せ」と思っているかもしれませんが、結果は虫歯になったり糖尿病になったりして、ひどい目にあいます。

欲も、怒りも、怠けも、嫉妬も、憎しみも、すべての感情はそのようなもので、感情に従えば苦しみが増えるのです。

どんな人も不満で、不安で、恐怖で、震えています。
なぜかといいますと、「わたしがいる」と固く信じているにもかかわらず、「わたしの身体」が年々衰えて、老いてゆくからです。
「元気で若い」と思っていたのに足腰は弱くなり、「体力がある」と思っていたのにちょっとしたことで疲れ、「美しい」と思っていたのに、プロポーションは崩れて顔にしわやしみが出てきます。
わたしたちの希望に反して、身体はどんどん衰えてゆくのです。それで「どうしよう、こんなはずではなかった」と不安になり怯えるのです。

わたしたちの愚かなところは、そういう事実を認めるのではなく、さらに自我を強めて「永遠になりたい」と妄想するところです。これがまた途轍もない苦しみを生み出すのです。

そこで、恐怖や不安、苦しみから解放されたければ、「実体としてのわたしはいない」ということを理解することです。
ものごとは常に変化していますし、身体もこころも変化しています。いくら認めたくなくても、これが正真正銘の事実なのです。このことを真に認めることによって、こころに「安らぎ」が生まれてくるのです。

これまで、不満ということについて「論理的バージョン」で説明してきました。少々むずかしかったかもしれません。
これから同じことを「単純バージョン」で説明いたしましょう。これで理解できると思います。

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この施本のデータ

わたしたち不満族
満たされないのはなぜ? 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2006年9月23日