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一生役立つブッダの育児マニュアル

親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

5 小学三年生からお坊さんへの質問

小学三年生の女の子から質問のリストが届きました。簡単に返事が出来ないほどの、なかなか鋭い質問状です。大人が子供に負けるようではメンツが立たないので、とりあえず返事を出しました。皆さまの参考のために、大人向けに編集してご紹介します。

Q1 私は何のために生まれてきたのですか?

生命には「何のために」生まれたということはありません。「別に、何か、生きることに目的などないよ」と言うと、皆変な顔をしますね。変な顔をするのは勝手で、自由ですが、生まれてきた目的があるという人がいるならば、私も教えてほしいものです。それで、世界では皆が、あれこれといろんなことを言います。「神様に作られたから大事な命ですよ」とか「神様が知っているから君が困らなくてもいいよ」とか。私は、皆が知っていて言うわけではなく、好き勝手に頭で考えたことを言っているだけだと思っています。それは人の個人的な主観であって、普遍的な真理ではありません。

「神様が私を作った」というならば、その目的を私が生まれると同時に頭の中にインプットしてくれないと、失礼もいいところでしょう。だって、生きているのは私であって神様ではないのですから。何のために生まれたか教えてくれなくて、もし人生で失敗でもしたらそれは神様のせいですよ。また「大事な命ですよ」と言う人は沢山いますが、「なぜ大事か」と、誰も教えてくれません(言っている本人も、知らないのにいいかげんなことを言っているだけです)。

何のために生まれてきたのですか、という疑問に答えられる人間はこの世に一人もいません。その問いには、正覚者であるお釈迦さましか答えられません。もしも何か生まれてきた目的があるならば、それはだれよりも生まれてきた「わたし」が知っているはずです。もし「わたし」が何のために生まれたかとわからないならば、二つのことが言えます。

 1 生まれてきた目的はない。

 2 もしあったとしても、それを知らなくても問題はない。

ためしに、「何のために生まれてきたのですか」とアンケート調査をしてみてください。きっと誰も知らないと思います。生きる目的は誰も知らないが、ほとんどの人々は問題なく人生をまっとうするのです。

人間だけではなく、全ての生命には生まれてきた目的はありません。皆、生まれたのだから死ぬまで生きているだけです。それは動物の世界を見るとよくわかります。生まれて、親が持ってくる餌を食べて大きくなって、独り立ちをして自分でも子供を作って、必死で子供を育てて、それから歳を取って死ぬ(だれかに殺されなかったら)。人間も、動物と違う変わったことをやっているわけではないのです。生まれて、だんだん大きくなって学校へ行って遊んだり勉強したりして、仕事を見つけて、結婚して、子育てをして、歳を取って亡くなるのです。何のためかと聞いても答えがありません。ただ、そのとき、そのときやらなくてはならないことをして生きているのです。

そして、「やらなくてはいけない」ことをその時にやらない人の人生が「失敗だ」というのです。動物の場合、「やらなくてはいけない」ことをその時にやらなかったら、途端に死んでしまいます。人間の場合も、かなり不幸になってしまうし、それで死に至ることさえあるのです。

つまらない人生に「楽しみの」誘惑

生きることがそれだけであるならば、「つまらない」、「寂しい」、「暗い」、「がんばる気持ちにならない」などと思うかもしれません。何が起きてもがんばって生きるのは、ちょっとした誘惑があるからです。「やらなくてはいけない」ことをやると楽しいのです。たとえば、お母さんが子供の面倒をみると楽しいのです。ご飯を食べるときも楽しいのです。動物も餌を見つけたら楽しくなります。子供たちも学校へいったり、勉強をしたり、遊んだりすると楽しいのです。宿題などいやかもしれませんが、満点とったら楽しくなります。「上手です、よくできましたね」と言われると楽しいのです。この楽しみが「誘惑」です。この楽しみを得るために、苦労を気にしないで皆がんばっているのです。ときどき悪いことまでもするのです。

生まれることは自分で決める

この世で何のために生まれてきたかと知っている人は一人もいませんが、全ての生命は「死にたくはない」とはっきりと実感しています。希望通りに生きることができなかった人々は、ときどき自殺することがあります。それは死にたくてたまらないからではなく、希望通りに生きることに失敗したからです。しかし、希望通りに生きられる人など、100万人に1人もいないと思います。

皆、生きることが好きなのです。死にたくはないのです。どのような人間に生まれても、その人は自分の人生が好きなのです。他の生命を見ても、同じことです。死にたがっている魚はいません。だから、もしかすると自分で決めて生まれてきたのではないか、と思うこともできるのです。

仏教では、過去の業によって生まれると説かれています。業は自分の意志でおこなう行為のことです。その業によって「次はどこ」と決まるのです。自分で好きに決めて生まれるというよりは、業によって、死ぬ瞬間に、次に生まれるところが決まるのです。しかし、行為は必ず自分の意志で、自分が好んで行ったものです。ですから結果(新しい生)については、文句があっても、まんざら嫌とは言えないことになります。生まれてきた人は、その生まれがどんなものであっても、正しく生きて生をまっとうする自己責任のようなものがあるのです。

幸福に生きていきたい、この人生で何か有意義なことを獲得したい、と思う智慧のある人は、「私はなぜ生まれたのか?」という疑問よりも、「私はどのように生きていればよいのか?」ということを大事にするのです。

Q2 今何をすればいいのですか?

これは今だけではなく、一生自分に聞いておくべき質問です。死ぬまで自分に聞き続ける質問です。

答えは、「今やらなくてはいけないことをやる」ということです。でないと人生は失敗します。明日、あさって、1年先、10年先、などを考えても、何が起こるかわかったものではありません。だから、何をすればいいのかと、あまり真剣に考えたり、悩んだりする必要はないのです。
やらなくてはいけないことは、今、目の前にあります。「好きなことしかやりません、嫌なことをやりたくない」などのわがままを考えたりすると失敗します。それはただの感情です。感情が出てくると頭がバカになります。自分にとって、自分の将来にとって大事なことは、いつでも「今やらなくてはいけない」ことなのです。「今やらなくてはいけないこと」は、もしかすると、「お風呂に入ること、勉強をすること、漫画を読むこと、お母さんの手伝いをすること、犬の散歩、植木に水をあげること」などかもしれません。とにかく簡単にわかるものです。
今やるべきことをやると、けっこう楽しいのです。サボると、嫌な気持ちになります。例えば、掃除をする時間なのにテレビを見ることにする。その時は何か悪いことをやっているような気がして、心が悩むのです。このような生き方を積み重ねると、生きることは苦痛になって、不幸になります。

とにかく、今やるべきことをやっておく。そうすると後悔はないのです。時々、やりたくないことも確かにあります。その時、本当は別なことをやりたがっているのです。例えば、眠い。しかし、明日の宿題もある。その時は、宿題のことを思うと嫌になったりする。一つの時間で二つ、三つ、四つぐらいやりたいことが出てくると嫌になってしまいます。

そのとき、ただ好きなことを先にやってしまうのではなく、よく考えてください。一つの時間には、一つのことしかできません。

やりたい四つのことの中で、一番大事なことは何ですか?

役に立つものは何ですか?

ためになるものは何ですか?

それで、優先順位が見えてきます。優先順位の第一が「今、やるべき」ことです。他の三つのことは出来ないから、取り消しにするのです。もし時間があるならば、第二、第三も順番でやればよいのです。

このやり方を実行すると、何の嫌なこともなく、生きることができるのです。「どうすればいいのですか?」と悩むこともなくなります。何の問題もなく人生はうまくいきます。楽しくなります。頭もしっかりして、鋭くなります。

Q3 今はどんな生活をすればいいのですか?

生きることに大した意味、目的はないと、前に説明しましたね。それでも、皆が一生懸命がんばっているのはなぜなのか、ということも説明しました。それは「やらなくてはいけないことをすると楽しくなるから」だと言いました。
子供を育てることも、家族を守ることも、仕事をすることも、ご飯を食べることも、テレビを見ることも、友達と遊ぶことも、「楽しいから」やっているのです。
注射を打ってもらうことは楽しくないが、病気になることも楽しくないでしょう。やはり健康になることは楽しいですから、痛い注射も我慢して打ってもらうのです。

「人はなぜ、嫌なことも我慢してするのか?」というと、それは後から楽しいことがあるからです。勉強は楽しくないかもしれませんが、後で楽になるから、親は「勉強しなさい」としつこく言うのです。仕事も大変で苦しいものかもしれませんが、なぜやるのかというと、お金をもらったら楽しく生きられるからです。

ですから、今どんな生活をすればいいかと聞かれると、「楽しく生活すればいい」というのが、決まりの答えなのです。しかし、楽しく生きていればいいといっても、そう簡単にはうまくいかないという問題もあります。たとえば、勉強は楽しくない、しかし学校生活は楽しい。ですから「毎日楽しく学校には行きたいけど、勉強だけはしたくない」と言い張っても、誰も賛成してくれません。勉強しなきゃダメと、しつこく言われます。そうなると、楽しく生活することはできなくなるのです。この状態はどうすればよいのでしょうか? どのように理解して乗り越えるべきかと、考えてみましょう。

結局は、私たちの好き勝手には生きていられないみたいです。やるべき事は、何でもかんでも決まっているみたいですね。これは、子供にも大人にも同じ事です。勉強したくないといっても、勉強しなくてはいけない。仕事に行きたくないといっても、仕事をしなくてはいけない。お母さんも、今日は料理をしたくない、掃除や洗濯をやりたくないと思っても、やらなくてはならない。楽しいことだけして生活しようと思っても、全然うまくいかないのではないかと思われます。

この問題を解決する、うまい方法があります。それは何ひとつ、「嫌なことだ、やりたくないことだ」と思わないでおくことです。
「どうしてもやらなくてはいけないのだから、楽しくやってしまおう」と、勉強を「嫌だ」と思わないで「楽しい遊びだ」と思ってするのです。お母さんも、料理、掃除、洗濯などを「嫌だ、やりたくない」と思わないで、「これは単純で簡単な仕事だ、料理の腕がどんどん上がるのだ、掃除や洗濯をすれば家はピカピカでなんて綺麗なんだ、汗を流すこともなく一日中体を使っているので有酸素運動になって美しくいられるのだ」と考えて、やればいい。
仕事に出かけるお父さんは「仕事は苦しいんだ、やりたくないんだ」と思わないで、たとえ苦しくても、「そんなことどこ吹く風だ、家族を幸福にするのは男の仕事だ、俺はシブい男なんだ」と思って仕事をすればいいのです。
やるべき事は決まっているのです。逃げられません。「やりたくないんだ」とわがままを言ってさぼったら、人生はどん底に苦しくなって、不幸になるのです。皆にバカにされるのです。
ですから、やらなくてはいけないことを楽しくやる方法を見つけて、やればいいのです。そうすれば楽しく生きていられます。

毎日していることを楽しくしてみてください。決して難しく考えないことです。勉強も、家の手伝いも、何でもかんでも楽しくやる。「自分が楽しいかどうか」ということはとても大事なポイントです。それによって、楽しく明るく、嫌な気持ちを味わうことなく生活できるのです。

さらに楽しさは「そこまで」というものではありません。もっともっと楽しく生活する方法があるのです。
それは、自分の周りも楽しくしてあげることです。自分がいること、することで、周りの皆も楽しくなるのなら、すばらしいことでしょう。楽しみが何千倍にも増えるのです。

周りの人々に嫌なことをすると、皆が暗くなったり、悲しくなったり、怒ったりします。自分に攻撃したりもします。そうなると、周りの人々よりも、自分自身の人生が不幸になってしまいます。
楽しいと思って、簡単に他人をイジメたり、バカにしたり、笑いものにしたりする人もいます。人をイジメたりする人々は、楽しいと勘違いしているだけで、実は自分自身の人生が苦しくて嫌なことがいっぱいあって、納得いかずに悩んでいるのです。明るく生きる自信もない弱虫です。自分のストレスを、他人をイジメることで解消しようとしている愚か者です。他人をイジメたら、皆が自分を「すごい」と認めるのだと勘違いしているのです。実際は誰でも、そのような人は嫌いです。実の母親さえも、その人を嫌うのです。
楽しいからといって、万引きしたり、不良に走ったり、麻薬を使ったり、学校で暴力を振るったりして、人生が楽しくなるはずもないのです。

周りを楽しくさせる人は、皆に好かれるし、自分も楽しくなれます。自分がいると、皆から「キミは本当におもしろい、キミがいると、みんな明るくて楽しくなる」と言われるように生活すれば良いのです。

ですから、死ぬまで、自分も楽しく、周りの人々も楽しくなるような生き方をすることです。人間だけではなく、自分と関係がある動物たちにも楽しくなるような生き方をしてみましょう。

Q4 今の人気があるのはなんでですか?

質問の意味が少々わかりにくいのですが、もしかすると、今、自分が人気者になっている、その理由を聞いているのでしょうか?

それは、あなたがいることで、またあなたがすることで、周りの皆が楽しくなるからです。

世の中の他の人気者たちの秘密も皆これです。その人がやることが、周りの人々にとっておもしろくて楽しい場合は、簡単に人気者になります。それから、何もしなくても人気者になる場合もあります。モデルさんのような美男美女であれば、何もしなくても人気者になります。その時も、その人々を見ることで、皆楽しくなるのです。「人気者は周りを楽しませる」のです。

今、人気があっても後で人気がなくなるかも、と心配する人も確かにいます。しかし、自分も楽しく生きていて、周りも楽しくしながら、皆の役に立つような生き方をする人の人気はなくなりません。人気者だ、売れているのだといって見栄を張ったり、高慢になったり、わがまま放題になったり、周りに迷惑をかけたりすると、風船が割れるように、人気が消えてしまうのです。人気者が突然嫌われ者になるのです。いくら人気があっても、人々に対してたいへん親切に、謙虚に、見栄を張らないで、皆の役に立つように生活すると、人気は消えません。

頭がいいから、美しい人だから、スポーツがうまいから、人気者になる場合もありますね。でも、それだけだったら危険です。嫉妬されるかもしれません。敵が出てくるかもしれません。裏切られるかもしれません。
その人の頭がよいことで、皆が楽しい、皆の役に立っている、そのときだけ人気があるのです。美しくて可愛い人も、周りを楽しくするなら、また皆の役に立っているならば、人気者になるのです。スポーツが出来る人も皆を楽しくしてくれるなら、役に立っているなら人気者です。皆を楽しくしてくれるなら、たとえ90歳の人でも人気者です。覚えていますか、きんさん、ぎんさんのこと?すごく楽しいお婆ちゃま二人でしたね。国民的な人気者でした。
ですから、私たちも、周りに迷惑をかけないで、周りを楽しくしてあげながら、役に立つような生き方をするなら、「死ぬまで」人気者です。

人気者になろうと、無理をして頑張る人もいます。しかし皆が、「あの人はおかしい、やりすぎた、おもしろくない」と思ってしまうこともあります。そう思われると、人気者ではなく、嫌われ者になるのです。強引に人を笑わせたり、わざと変なことをしたりする人々は、なぜ不人気者になるのでしょうか?そのような人々は、自分が人気者になりたい、皆に良く思われたいと必死で、自分のことしか考えていないのです。わがままなのです。相手に失礼でないかどうか、相手が喜んでくれるかどうか、相手の役に立つかどうかは考えないのです。自分のことを可愛がってくれればそれで充分だと思っているのです。
このようなわがままな人は、いくら無理をして頑張っても人気者にはなりません。皆「つまらなくてうるさい人だ、わがままな人だ」と思って遠ざかるのです。人気の秘訣は、他人を喜ばせる、他人の役に立つ人になることなのです。

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一生役立つブッダの育児マニュアル
親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2004年8月