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一生役立つブッダの育児マニュアル

親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

子供が与える研究課題

私はこういうふうに解釈します。たとえば、小さな子供はよく泣きますね。
「泣く」ということを通じて、親に一つの宿題、研究テーマを出しているのです。親にとっては未経験の事態なので、なぜ子供が泣いているかがわからない。これは、自分に出された研究テーマであり、現場で今すぐ発見しなくてはいけない課題なのです。
たまに間違ってもいいのですが、間違えながらも、「なぜ子供が泣いているのか?」と発見するのです。
私が見たところでは、発見するというより、子供が泣いたら、何とかごまかして泣き止ませようとする親が多い。場合によってはそれも悪くないのですが、いつでもごまかしてしまうのは、あまりよくありません。
そこで課題に取り組んで、答えを発見できたならば、それは「自分の発見」になるのです。たとえば三ヶ月ぐらい子供を観察すると、母親はだいたい泣き声を聞いただけでも、「お腹がすいているのだ」「遊びたがっているのだ」「暑がっているのだ」「寒がっているのだ」などと、すぐわかるようになるのです。

そういうふうに、自分で子供を大学にして研究してみると、決して育児ノイローゼには陥りません。育児ノイローゼという病気がありますね。自分は寝る暇もなく頑張っているのに、何をしても子供が泣きやんでくれない。それで嫌気がさしてしまうのです。
そうやってひどく泣く子も、ちょっと大きくなると泣くのはやめますが、それからは「あれくれ、これくれ、これはいや、あれはいや」と、極端なわがままになったりするのです。そのときはもう言葉をしゃべれるので、母親はかんかんに怒ってヒステリーを起こしてしまう。気持ちとしては子供を育てたいのだけれど、どうもうまくいかない。それでぶったり殴ったり、虐待に走ってしまうのです。虐待する母親たちの話をテレビで見たのですが、自分の子供だからものすごくかわいいと言うのです。虐待なんて、本当は全然したくない。それでも子供が泣いたり、わがままを言ったりすると、つい手を出してしまう。そういう自分のことも怖くなってしまうのだそうです。

この問題を解決する方法は、子供とは大学であり、難しい研究課題を出してくるのだ、と理解することです。
いろいろな方法を試してみると、子供がなぜ泣いているかという答えが見つかります。実にいろいろな理由があるのです。時には、妊娠中の親の食べ物とか環境、あるいは生き方なども胎児にかなりの影響を与えますから、ホルモンバランスが崩れて、神経質な性格に生まれてくる場合もあります。あまりにも神経質で、生まれる前からストレスの塊になって生まれてしまう。
子供は、からだは小さいけれど、心のエネルギーは大人と同じなのです。心のエネルギーにストレスがたまっても、その小さなからだの中で何とか処理しなくてはいけない。そのことに我慢できなくて、ひどく泣いたりする場合もある。そこは一番大変な問題なのですが、なぜ生まれた瞬間からそんなにストレスがたまっているのかということは、かなりの研究課題なのです。

以前、知り合いの子供がいて、母親が日本人、父親が外国人でした。子供は日本で育っているので、心の中の文化は完璧に日本文化です。自分は完璧に日本文化の人間なのに、ご飯を作ってくれるおばあちゃんが違う文化で、日本語もしゃべれない。子供と遊ぶときもちょっと文化が違う。子供がわがままに何か要求したときも、対応の仕方が違う。日本的じゃない。それはその子にとって、ものすごいストレスなのです。しかも日本人の母親はいい加減で、あまり子育てに手をかけない。でも、子供は日本文化的な育ち方に慣れていて、それを要求しているのです。
ある日、子供が泣いて泣いて、いくら抱っこしても、お母さんやおばあちゃんが抱っこしてもいやがって泣き止まない。そのとき、近くにいた見ず知らずの日本のおばさんがその子を抱っこしたら、途端に泣きやんだのです。考えてみてください。小さな子供が、まったく知らない人に抱っこされたら、普通は機嫌が悪くなるでしょう。嫌がるでしょう。すぐに自分の親のところに飛んでいくでしょう。ところが、その子は知らないおばさんに抱っこされ、なんのことなく泣きやんでしまった。
そこで私が理解したのは、これは文化の違いだということです。小さい子供のころは、二つの文化に慣れるのはむずかしいのです。いきなり目に入った文化を受け取って、それを基準にして生きるのです。ですから、たとえ知らないおばさんでも、日本語でしゃべってくれて、それなりに子供にふさわしい言葉で対応して、やさしく抱っこしてくれたら、それで落ちついてしまったのです。

子供が泣くということは、私たちにとっては大学レベルの研究課題です。親はそれを研究しなくてはなりません。大体の場合はすぐに発見できますが、もちろん、どうしても泣き止まない場合は、病院で体の状態を診てもらった方がいい場合もありますよ。

子供の性格を見極める

育児では、自分の子供の性格を見極めることも大切な研究課題です。

そこで、小さい子供をもつお母さんにお話したいのですが、ぜひ、寝ていた子供が目を覚めたときの様子を観察してみてください。そのときの態度が、その子の基本的な性格なのです。その子をどう育てればいいのかについても、そこから発見できます。子供の性格がわからないというのは、さびしいことです。子供がニコニコと笑って遊んでいるときは性格があまり見えないのです。すごく怒ってギャーギャー泣いているときも、あまり性格は見えません。
目が覚めた瞬間というのは、自分ひとりなのですね。ひとりで目が覚めたら、子供はどんな行動をするかということです。そこで、子供の基本的な性格が見えるのです。そこに合わせて育てればいいのです。

具体的に言うと、子供は目が覚めた途端に泣くものですが、誰かがそばにいたら泣かない、という子もいるのです。その子はさびしがりやですね。一人でいたくない子です。
では、目が覚めたらすぐ泣き、母親が来て抱っこして慰めてあげない限り泣き止まない子はどうでしょう。目が覚めたらとにかく機嫌が悪い。この子は結構わがままなのです。赤ちゃんだから見えないだけで、大人になったらかなり激しい性格になる。
また、目が覚めた途端、なんということもなく、すぐに笑う子もいる。一人でも笑って遊ぶという子もいるのですね。この子はかなり明るい、それほど手がかからない子ですね。それでもちょっとした引っかけがあります。時々、小さいときから大人の機嫌をとろうとする子がいるのです。誰に対してもよく笑って、おばあちゃんにも、おじいちゃんにも、兄弟にも、誰にでもすぐ抱っこしてもらう。そうやってみんなの機嫌をとろうとする子もいます。それも一つの性格なのです。そういう子はもしかすると、悪く言えば、ずるがしこい人間になる場合もあります。

親の仕事というのは、子供がどんな性格であれ、その性格を見極め、いい方向へ持っていくことです。たとえ極端に我が強くて荒っぽい赤ちゃんであっても、コツコツ教えてあげればいいのですからね。
基本的な性格はどうであれ、よい方向へ育てるのが親の仕事なのです。そういうふうに、子供というのは大学だと思って接すると、結構やりがいがあると思います。

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親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2004年8月