施本文庫

一生役立つブッダの育児マニュアル

親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

愛情を捨てて「慈しみ」で育てる

次のポイントです。ほとんどすべての親は、子供に対して強烈な愛情を持っています。この親の愛情――仏教ではこれを執着とか愛着といいます――は大変危険な猛毒で、苦しみしかつくらないのです。
「子供のためなら何でもする、命も惜しまない」などと愛情で頭がいっぱいになると、頭が狂って物事が見えなくなり、何もわからなくなってしまいます。そして、我慢できないほどの苦しみが生まれてくる。
頭が狂った人は何をするかわからないでしょう。ひどいときには、子供のためだと思って人殺しでもするのです。親の愛着は、子供にとっては耐え難い精神的な負担です。親は子供のために命までかけるつもりでいても、子供はできるだけ感情に狂っている親から縁を切ろうとするのです。愛着は、親子関係まで壊してしまうものです。

そこでお釈迦さまは、「愛情ではなく慈しみで育てなさい」と教えられました。子供にとって必要なのは、愛情ではなく慈しみなのです。
慈しみとは、「この子は私のものではない。地球上に生まれてきた大事な人間です。この子が間違いを起こさず幸福でいてほしい。責任感のある立派な人間に育ってほしい」という気持ちのことです。

たとえば、自分の子供が学校で友だちをいじめたとしましょう。親が学校に呼び出されると、たいてい今の親はこう言うのではないでしょうか?「うちの子がそんなひどいことをするはずがありません」と。
子供が問題を起こすのは、親のやさしさが足りないことに原因がある場合も多いのですが、いざ子供が問題を起こすと、親は偉そうに「お母さんは嘘をついてでも、あなたを守ってあげます」という態度をとるのです。子供でさえ、自分がやったことはよくないと知っているのに、こういうときだけ《やさしいお母さん》を演じて子供の弁護にまわるのです。それでは子供の性格が歪んでしまいます。

世の中には道徳や倫理、秩序というものがありますから、子供が悪いことをしたら、親は落ちついて「なるほど、うちの子が悪い」と認めることが大事なのです。
慈しみがあれば、子供にこう教えることもできるでしょう。「君が悪いことをしたら君の責任ですよ。いつまでも親に守ってもらえると思ったら、それは大間違い。親には何もできません。君は世の中の人間だから、世の中の道徳を自分で理解して行動しなくてはいけないんだよ」と。
正しい子育ての秘訣は、「愛情を捨てて慈しみで育てる」ということです。

それから、出家の世界でも子供を育てることがあります。お寺には小さい子供たちが親元を離れて出家してきますから、その後はお坊さんたちが親代わりになって子供の面倒をみるのです。
ふつう大人が子供の面倒をみると、どうしても愛情というものが湧いてきます。しかし、愛情は執着であって苦しみしかつくりませんから、仏教の世界では、厳密にそれを戒めて禁止しているのです。子供にしても、他人が自分に愛着を持って育てているとわかると、ストレスを感じて苦しくなるのです。
たとえば養子縁組という制度があるでしょう。幼いとき施設にいた自分を、誰か見知らぬ人が引きとって、我が子のように育ててくれる。18歳ぐらいになって「この親は自分の本当の親ではない」ということがわかると、ショックを受けるのです。なぜなら、これまで好き放題にわがままを言って、喧嘩したりして、さんざんこの両親を困らせてきたのですから。それで「申しわけない」という気持ちが生まれてきて、ストレスがたまるのです。
また、育てた親も悲しいのです。彼らは本当にこの子を《我が子》だと思っているに、育てた子供は「自分を産んだ親はだれですか」と、産みの親を探しまわることになる。結局、お互いに苦しいのです。

そこで仏教は「愛情を捨てて慈しみで育てる」ことを薦めるのです。慈しみで育てれば、子供には「申しわけない」という暗い気持ちではなく、「ありがたい」という感謝の念だけが残りますから、両者の人間関係が壊れることはないのです。
「この子は地球の人間であって、自分のものではない」という慈しみで育てるなら、互いの信頼関係はずっと続いていくのです。
結論を言いますと、子供を一人前の人間に育てることだけを考えれば、何の問題も起きません。
短い言葉で覚えておいてください。親の仕事は子供の人格を形成することです。

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一生役立つブッダの育児マニュアル
親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2004年8月