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こころのセキュリティ

爆発寸前のあなたを幸せに導く「日夜の指針」 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

真理の言葉とこころの安定

皆さんの毎日はとても忙しく、せっかく仏教の修行をしたいと願っても、なかなかそのための時間が取れないというのが現状でしょう。そういう事情はよくわかりますし、現代はそういう時代ですから、それもしかたのないことだと理解しています。
仏教の教えには膨大な経典があり、そのいずれもすばらしく大切な内容ですが、そういう時間のない人たちにとって、ここでご紹介した「日夜の指針」は、仏教の教えのいちばんのコア(核心)であり、かつどんなに忙しい人でも実践できる簡単なものです。日夜この三つの偈を念ずるだけで、こころが清らかになり、こころにたまっているストレスも消えてしまうでしょう。

この「日夜の指針」をよく知っている仏教徒にとっては、なにかこころを騒がせる問題が生じても、暴れている象やライオンに麻酔をかけたように、瞬時に落ち着くことができるのです。
たいていの人間は、お守りをほしがります。どこかの神社や観光地に行くと必ず売っていて、皆さんはそれを買うでしょう。人間はみんな不安なのです。生きること、生活することは、不安、ストレス、怒りのデパートにいるようなものです。そういう生活からなんとか自分を守ろうと、お守りやお札などを買ってしまうのでしょう。お守りやお札に論理的な説明はつきません。「あんなもの、なんの価値もない」と言ってしまえば、それまでのことです。

でも、そういう不確かなものに寄りかかって生きていくよりも、この「日夜の指針」を唱えたほうが、比べものにならないほどこころは安定するのです。
それは、この三つの偈がこころの問題を客観的に分析して理解したその結果だからです。「日夜の指針」のそれぞれの偈を口ずさみ実践したならば、こころはまちがいを起こせなくなるのです。「日夜の指針」は、高度なインテリのお守りと言っていいと思います。

おわりに 

今回のお話は、「こころは原子爆弾だ」という比喩を使って進めてきました。原子爆弾と限定せずに、たんに爆弾と言ってもよかったのですが、こころというものはたった一人の誤りで無数の人類を苦しませ、不幸にしたり、さらに何世代にわたってまで迷惑をかけたりするものです。ただの爆弾よりも、原子爆弾としたほうがピッタリだと考えたのです。
爆弾というものは、爆破しないかぎりなんの問題もありません。そこにあるのは危険性だけです。しかし、爆発したら自分は当然破壊されるし、周りも破壊してしまうのです。いまの人間の生き方は、まさに爆弾そのものです。 

毎日のように犯罪が起こっています。母親が子供を殺す。子供が学校で殺される。銃の乱射事件、テロ、戦争、殺人、自殺、ケンカ、嫌がらせ、脅迫、詐欺、強盗、横領、贈賄……。
みんなが平和をめざし、仲良く、優しく、調和して生きることが、たいへんむずかしい世の中になってしまいました。それは、一人ひとりのこころのなかにウランという爆発物があるからです。たとえそれが爆発しなくても、放射能漏れという危険性もあります。爆発しないようにすることはもちろん、放射能漏れもないように、私たちは厳重にこころを管理しなくてはなりません。こころの管理は、人間一人ひとりの大切な義務です。この本で紹介した「日夜の指針」は、その大切な義務を立派に果たしてくれます。 

「人間は神の子だ」「尊い存在だ」「清らかな魂の持ち主だ」と言われると気分はいいかもしれませんが、人類の苦しみという問題を解決することにはなりません。
「こころは貪瞋痴で汚れている」と、仏教では指摘しています。ですから、「人間は神の子」ではなく「人間は鬼の子」であると考えて、徹底的にこころを清らかにする訓練を皆さんで実践してください。 

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こころのセキュリティ
爆発寸前のあなたを幸せに導く「日夜の指針」 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2002年9月