施本文庫

ブッダは真理を語る

テーラワーダ仏教の真理観とその変容 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

真理がわかれば悩み苦しみは消える

ブッダの教えを信じて、信頼して、説かれる通りに生きてみれば、信という仮説が正しかったのだと発見することができます。「真理」に納得するのです。真理に納得することが、信を確立することです。
信を確立することは、最初の覚りに達することでもあります(それはパーリ語でsotāpatti(ソーターパッティ)預流果(よるか)」といいます)。

「地球は丸い」という真理がわかりやすい例でしょう。最初は「地球が丸い」と言ったら殺されましたが、さらに調べると、地球はやっぱり丸かったのです。はっきりわかってからは、面白いことに「地球が丸い」という考えについて、誰もけんかしません。昔と同様、どう見ても地球は平らに見えますが、「地球が丸い」と誰かが言ったときに、もはや誰一人として争いませんし、殺し合いもしません。今では、みんなが地球が丸いことを知っているので、いくら平らに見えても、平らだとは思わないのですね。
「地球が丸い」という真理に達したので、それについての我々の悩み、苦しみが消えてしまったのです。

真理が発見されれば、何の問題もありません。地球を一回りしようと思ったらできるし、見る限り氷だらけの南極も、きちんと計測して探検できます。 

太陽の動きや、地球の自転・公転、惑星の動きなど、そういうものの真理を発見したところで、我々の苦しみ、恐怖感はなくなりました。もう彗星(すいせい)が不吉だといって恐れることはなくなりました。日食や月食の恐怖感からも解放されました。

インド文化では、いまだに日食に(おび)えます。日食がひどく不吉で不幸をもたらすことだと思っていて、日食のあいだにいろいろな宗教儀式などをやったりします。なかには「日食が終わるまでは外にいてはいけない」といって、川に飛び込んでしまって死ぬ人さえもいるのです。これは、月食も同じです。

かつての人々にとって、偉大なる太陽の神様の光が消えてしまうというのは恐ろしい出来事でした。特に皆既日食の場合には、動物たちも鳥たちも、暗くなったので寝ようとします。そして、夜に咲く花が咲きだします。人々はその様子を見て「この世の終わりだ」とびっくりしたのです。

しかし、現代の日本人である皆さんはへっちゃらでしょう。日食があると報道されても気にもしません。私が日本に来てからも、何回も日本で日食がありましたが、ほとんど誰も見ていません。ただし、「今世紀では、皆既日食はこれきり」と言われた日食のときだけは例外で、大変な騒ぎでした。しかし、皆、大騒ぎしただけで誰一人として怖がりませんでした。

どうして怖くなかったのでしょう? それはもう、真理を知っているからです。どうして太陽が昼間なのに見えなくなってしまうのかというと、太陽と地球のあいだに月が入るからです。ちょうどあいだに入って邪魔をして、月の動きは速いですから見る見るうちにどきます。それだけのことですから「ちょっと暗くなるし、面白い」で済みます。
コロナの写真を撮ったり、普段は見えない太陽の一部が見えるそのときに科学者はいろいろ研究します。ちょっとしたイベント、楽しみです。

もはや病気はたたりではない

病気についても同様です。昔は、家族の一人が病気になると、家中みんなが病気になりました。さらに隣の家にも病気が広がってしまうので、とても恐ろしく感じられました。
「呪われている」「何か神が怒っている」などといって、あらゆる儀式や祈禱をやって神を(なぐさ)めようとしたのです。「ごめんなさい。私が悪かった。どうか子どもを治してください」などと祈ったのです。

今、皆さんが病気になったらどうしますか?

「恐い」とか「大変だ」という感じでもなく、まず病院に行くでしょう。あるいは薬局で薬を買うこともできます。たいていは、病院か薬局に行って、薬を手に入れて飲んで、「はい、終わり」となります。

どうして、現代では病気のことがすぐ終わるのでしょうか。それは、真理を一部、発見したからです。すべてではありませんが、「なぜ病気になるのか」について、かつてよりわかっています。わかったぶんだけ、私たちの苦しみ、悩みが消えたのです。

それでも、まだまだ終わってはいません。医者がいくら治療しても人は病気になるし、治療不可能な病気はけっこうあります。たとえば、認知症・アルツハイマーには年を取ってくるとけっこうな方々が(かか)りますが、根本的な治療法はありません。
しかし、それでも昔ほど怖くはないのです。今は薬で症状の進行を遅らせることもできますし、「近い将来、原因を発見すれば何とかなるだろう」と期待できます。

あるいは、白血病にしても、今はなかなか骨髄移植のためのドナーが見つからなくて苦労しています。型が合うのは、だいたい二十万人とか四十万人に一人など、極めて稀なのです。

しかし、認知症にしても白血病にしても、遺伝子を調べて、問題のあるところを治してあげれば解決します。医療の進歩・発展は、将来的に遺伝子治療が可能になるところまで来ています。遺伝子を解明して、一人ひとりの身体に適した薬をオーダーメイドで作れる時代になると言われているのです。
そうなれば、多くの病気は解決されます。そして、そこまで発展しても、まだ不完全なのです。

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ブッダは真理を語る
テーラワーダ仏教の真理観とその変容 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2015年