智慧の扉

2010年7月号

不安を「気にする」暇はない

アルボムッレ・スマナサーラ長老

不安は大海の水のようなものです。決してなくなりません。不安を溜めこむと、パニックに陥ったり、精神病に罹ったりする場合があります。ですから、いまの不安に対してどうするかと、その都度、適切に対処するしかないのです。

私たちは、不安を「気にする」暇などありません。人生というものは「いま・ここ」に制約されています。「いま・ここ」という枠があって、その枠内で生きているのです。誰であれ、「いま・ここ」でしか行動できない。どんな偉い人でも「いま・ここ」に出来ることは決まっています。だから難しく考える必要もないのです。起きていることはシンプルです。すべきこともシンプルです。ですから、人生には「選択」ということすら成り立たないのです。 

智慧に優れた人は、最高に気楽に、「いま」という時間で、「ここ」という場所で生きています。たとえ貴方がギターが得意だとしても、講演会の会場ですべきことは決まっている。話を聞くことです。もしギターの事を妄想して講師の話を聞かなかったら、時間の無駄。あとで後悔しても、またその時間が無駄になります。「いま・ここ」ですべき事をしないと人生が台無しになるのです。

ですから、だいそれた事を妄想して、人生を無駄にしないこと。後で後悔しないように、「いま・ここ」の仕事をする。それで終了です。繰り返しますが、だからといって不安がなくなることはあり得ません。不安に囚われそうになったら「いま・ここ」という言葉を思い出してください。

自分の生きる時空を「いま・ここ」に絞り込むこと。そうすれば、人生の階段を一歩一歩、登っていけます。